自動車社会は今後10年の間に、大きく変貌しなければならない。温室効果ガスに対する世界的な規制強化や原油高騰によって便利な移動手段というだけの役割では済まなくなる。果たして、どのように変貌すべきか。ヒントは、今後の普及を目指すEVやPHEV、FCVにある。こうした電動車両が広まれば自動車の負の部分が軽減され、さらに電力源の分散化によるエネルギー利用効率の向上を加速する可能性が高い。「電力インフラをより強固にする」ことが、今後10年で自動車が推進すべき課題である。

電動車両の普及は社会インフラを変える

 2020年、自動車に原子力発電所128基分の電力を蓄えることができるようになる──。

 これは決して絵空事ではない。世界では8億台ほどの自動車の保有台数がある。このうち、2020年に、市場のわずか0.3%が電気自動車(EV)、1%がプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)になったと仮定すると、EVが240万台、PHEVが800万台となる。これらの車両に搭載される2次電池に蓄えられる電力量は1億2800万kWhにも上る。この電力を1時間ですべて利用した場合、原子力発電所128基分の出力を得られる計算になる。日本でも同様の比率で普及したとすれば、同11基分の出力に相当する。

 こうした電動車両が備える蓄電能力を上手に活用しようとする動きが世界中で活発化し始めている。将来の自動車は、移動手段というだけでなく大切な電源としての社会インフラと捉えられ、自動車産業は今後、その技術開発の方向性を大きく転換する時期を迎える可能性が高い。

 実際、大容量の2次電池を搭載するEVやPHEVの市場が今後、急拡大するとの見方は強い。理由は二つある。一つは、自動車に対する排出ガス規制や温室効果ガスに対する規制の強化が世界的に進みつつあること。もう一つは、原油高騰に対する懸念である。原油産出国では自国の貴重な収益源となる原油を長期にわたって高値で供給していくとみられており、今後、供給量を絞る可能性が指摘されている。

エンジン車ではクリアできない

 規制強化については、先進国を中心に2020年に向けて、従来のエンジン車ではクリアできないようなCO2排出量に対する規制が課せられつつある。例えば、欧州では乗用車1台当たりのCO2排出量を2012年の平均130g/kmから、2020年には同95g/km、2025年には同70g/kmに引き下げるという中長期目標を掲げている。

『日経エレクトロニクス』2011年8月8日号より一部掲載

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