「渋滞学・西成教授の数学で闘え」は、技術の現場で発生する課題を、技術者が自ら数学を用いて解決する方法を学べるコラム。数学に苦手意識を持つ人でも楽しく学べるように「これだけは」という要点のみをまとめる。

 この2回(2011年6、7月号)の授業で皆さんは、曲率とは何たるかの本質を理解しました。曲率とは、曲線の接線の傾きの変化の大きさ。そして、曲率のスーパー公式は?

(生徒を見回すと、各自が小さな声でつぶやく)

dθ/dsκ

 そうですっ。今回は、曲率の本質を理解した皆さんに私からプレゼント。幾何の世界のおいしいトコ全部を超短時間で堪能できる「西成プロデュース、幾何弾丸ツアー」にご招待します! この旅を終えれば、皆さんは幾何の骨組みを全て理解したも同然。しかも、新商品の開発に役立つヒントも盛りだくさん。きっと、幾何においての確かな自信をつかんでいただけることでしょう。

 最初の観光スポットは、皆さんおなじみの高速道路。渋滞学を研究する私の専門分野でもあります。高速道路の設計には曲率が活用されているのは、ご存じでしたか?

(ボードに巻き貝のような渦巻きを描く)

 高速道路の出口によく、こんなカーブがありますよね。先に進めば進むほど、曲率はギュッと小さくなっています。でも、皆さんがそこを運転するときは、急にハンドルを切ったり急に減速したりしなくてもスムーズに曲がれる。このように、運転する人が無理なく運転できるカーブのことを「クロソイドカーブ」といって、実は高速道路の全てのカーブはこれで設計されています。

 ここで、お待ちかねの式の登場です。クロソイドカーブの式は、ある地点から自動車が進んだ距離をとして、κ=2になります。ではなぜ、こうすると運転しやすいか。私、西成ガイドが説明しますのでついてきてくださいね。

〔以下、日経ものづくり2011年8月号に掲載〕

西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、独University of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。