欧州と米国で、組み込みソフトウエア技術に関連する国家プロジェクトが進行している。クラウドとの連携を前提にしたとき、次世代の組み込み技術はいかにあるべきか。将来像と設計方法論を見据えて研究が活発化しつつある。「技術力は世界一」との自負を持つ日本の組み込み技術の将来展望を追う。
自動車業界やIT業界などのソフトウエア技術者、制御技術者、研究者などの間で現在、注目を集めているプロジェクトがある。米国が2006年に開始した国家プロジェクト「Cyber Physical Systems(CPS)」だ。
CPSというのはその名の通り、物理的な実体を持った組み込み機器(Physical)が、ネットワークを介してクラウドなどのITシステム(Cyber)と連携する姿を意味している。環境中に散らばる機器やセンサで得られた物理的な情報をITシステムによって集約し、システムそのものの効率的な制御や分析に役立てようという発想だ。
開発方法論に重点
一見すると、CPSが目指す将来像はセンサ・ネットワークやスマートグリッド、米Massachusetts Institute of Technologyが提唱する「Internet of Things」などと変わらないようにも思えるが、実は大きな違いがある。
CPSプロジェクトが特徴的なのは、クラウドと組み込み機器が連携する大規模で複雑なシステムについて、その設計手法や検証手法など開発方法論の基盤研究に焦点を当てている点である。
自動車、社会インフラ、鉄道、医療機器、ヘルスケア機器、航空機など数多くの機器がネットワークを介してITシステムと連携した場合、そのシステムの安全性や信頼性、セキュリティーなどをどのように確保するか。既存の技術だけでは限界があるとの認識の下、CPSプロジェクトは始まった。ソフトウエア・エンジニアリングや制御工学、システムズ・エンジニアリング、コンピュータ・サイエンスなど組み込み開発に関連する複数の工学領域を統合し、再構築しようとの野心的な目標を掲げている。