「渋滞学・西成教授の数学で闘え」は、技術の現場で発生する課題を、技術者が自ら数学を用いて解決する方法を学べるコラム。数学に苦手意識を持つ人でも楽しく学べるように「これだけは」という要点のみをまとめる。

 この「数学で闘え」では、数理科学の有用性について約1年間にわたって解説してきました。論理体系として世の中の基礎をがっちりと支えている数学と、それを現実に応用できるように発展させた物理。これら2つを融合させた数理科学は、数学の力を最大限に生かすことで現実の問題を解決しようとするものです。どんなに時代が移り変わっても劣化しないのが数学。数学は、急激な環境の変化にも対応できる力を私たちに与えてくれます。

 今回は、生徒さんたちと学ぶ授業はいったんお休みにして、日本を取り巻く環境が激変している今、ものづくりに携わる私たちが知っておきたい数理科学的思考について取り上げたいと思います。テーマは、東日本のものづくり業界で今、由々しき問題として議論されている「本年夏のピーク時における電力不足」としましょう。

 下のグラフ(1)は、最近、テレビ番組などでよく見るようになった、東京電力管内の一日の電力需要を表したものです。今夏の電力供給量は、結構上積み可能との報道もありますが、5000万kW程度と考えると午前8時~午後8時の間に電力不足に陥ることが懸念されます。電力のユーザーは、工場などの「産業」とオフィスなどの「業務」、そして「家庭」の3つに大別できます。5000万kWの直線からあふれた山の部分を、どうにか直線の下に収めたい。さぁ、どうするか。

 さっ、ここでおなじみのクイズです。この議論を進める上で、絶対に欠かしてはいけない視点があります。理由は、これを忘れると実現可能な解決策が導き出せなくなるから。最近の議論には、少しこの視点が欠けているように思います。さぁ、皆さん、何だかお分かりですか?

〔以下、日経ものづくり2011年5月号に掲載〕

西成活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 教授
東京大学先端科学技術研究センター教授。1967年東京都生まれ。1995年に東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程を修了後、山形大学工学部機械システム工学科、龍谷大学理工学部数理情報学科、独University of Cologneの理論物理学研究所を経て、2005年に東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻に移り、2009年から現職。著書に『渋滞学』『無駄学』(共に新潮選書)など。