しつこい!と言われるかもしれないが、コンセプトと本質の話を続ける。今回は、別の視点から見よう。言葉という視点からだ。
我々は、ホンダの研究開発を担う本田技術研究所のことをそうは言わず、よく「本田言葉研究所」と呼んでいた。技術やクルマの研究の前に、言葉を巡って延々と議論が続くからだ。以前紹介したように、新車の商品コンセプトを表現する言葉を決めるためだけに、3日3晩のワイガヤを3回やった開発チームもあった。とにかく、言葉に対するこだわりが半端ではない。そのため、技術ではなく言葉を研究している所という意味を込めて、本田言葉研究所と呼んでいたのである。
明快な言葉で表現する
筆者は最初、「話してばかりいないで早く技術開発をやろうよ」と、言葉を巡って議論する先輩を見ながら思っていた。議論の時間が無駄だと感じていたからだ。しかし、それが間違いであることに比較的早い段階で気付いた。コンセプトが間違っていたり、表現する言葉が不明確だったりすると技術開発が行き当たりばったりになる上、開発チームの意思統一も図れない。結局、無駄撃ちが多くなって技術開発が進まなくなるからだ。
普通に考えると、コンセプトは内容が重要で、それをどんな言葉で表現するかはささいなことのように思える。しかし、それは大きな間違いだ。ホンダでは、明快で簡潔な言葉で表現されなければコンセプトとしては認められない。言葉に落とし込むことによって、初めてコンセプトが完成するのである。
〔以下、日経ものづくり2011年5月号に掲載〕
中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)