マイクロプロセサなど電子機器の進化を支えるLSIが、技術的な大転換期を迎えている。集積度や性能を高めるための王道である微細化技術が、危機に直面しているのだ。これを乗り越えるには、LSIの基本素子であるMOSトランジスタの構造や材料を抜本的に変えなくてはならない。2020年ごろまでに、こうした大きな技術変化が起こりそうだ。

さまざまなチップやモジュールが1チップに集積可能に

 数十コアのマイクロプロセサや数十Gビット級のメモリ、無線回路、電源制御ICなどを、1枚の半導体チップに集積する。これによって、電子機器内で大きな面積を占めていた部品やモジュールを、小指の先ほどの寸法に収める。

 機器メーカーが待ち望むそんな半導体が、2020年ごろには現実のものとなりそうだ。半導体チップに、1cm2当たり100億個と、現在の約10倍のトランジスタを集積できるようになるからだ。

 こうした半導体の進化を牽引するのが、トランジスタの加工寸法の微細化である。半導体はこれまで、トランジスタの集積度が微細化によって1.5~2年で2倍に高まるという「ムーアの法則」に従って、高性能化と低コスト化を進めてきた。現在の2倍の集積度を持つ半導体が、1.5~2年待てば、同じチップ面積と価格で手に入るわけだ。機器メーカーにとっては、機器開発の先行きを見通しやすくなるという大きな効用がある。

 トランジスタの集積度を高め、半導体チップにより多くの機能を盛り込む技術として、微細化に代わる手段は現時点で存在しない。2020年ごろまで、微細化の利点は失われないとの見方が支配的だ。「(現在のスーパーコンピュータの)ペタFLOPSの演算性能が、10年後には携帯機器に搭載される」(米Intel社)──。こうした電子機器の劇的な進化は、微細化技術あってこそといえる。

『日経エレクトロニクス』2011年4月18日号より一部掲載

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