これまでのインターネット構築に不可欠だったIPv4アドレスの中央在庫が枯渇した。通信事業者は従来のIPv4ネットワークの維持に資金を注ぎ込むか、IPv6に移行して攻めに転じるかの二者択一を迫られることになる。家電製品やセンサ端末などのメーカーにとっては、IPv6への転換は製品やシステムの設計、サービスの自由度が高まる大きなチャンスといえる。既にIPv6のネットワークは動き出している。新事業に向けて走り出しているメーカーや通信事業者も多い。

枯渇間近になって、大手通信事業者がIPv4アドレスの争奪戦を展開

 IP(internet protocol)アドレスを管理する米国の団体ICANNの「IANA在庫」が枯渇した。IANA在庫は、全世界にIPv4アドレスを割り振るための中央在庫である。2010年半ば時点ではIANA在庫の枯渇は、2011年8月ごろと見積もられていた。約半年も早まったのは、世界の通信事業者が駆け込み的にIPv4アドレスの大量調達に走ったからである。

争奪戦の主役は移動通信事業者

 その中で、調達の規模が群を抜いて大きかったのが、中国の通信事業者だ。中国は人口が日本の約10倍と多く、しかもインターネットの普及期の真っただ中にある。このため、2009年5月時点で2億個だったIPv4アドレスの総数が、わずか約1年半で1.5倍の3億個に増えた。中でも、移動通信事業者として世界最大である中国China Mobile社(中国移動)や同世界3位の中国China Unicom社(中国聯通)のIPv4アドレスの確保量が非常に多い。

 移動通信事業者がIPv4アドレスの大量調達に走っている点は、その規模こそずっと小さいものの、日本も同様だ。「レジストリ」と呼ばれる、IPアドレスの割り振りや登録を管理している機関である日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC) インターネット推進部 部長の前村昌紀氏は、「スマートフォンやモバイル・ルータ、HSDPA、WiMAXといった新しいニーズが創出された」ことが、その背景だと指摘する。

2012年半ばには影響が顕在化

 しかし、こうしたIPv4アドレスの争奪戦は間もなく強制的に終わる。中央在庫だけでなく、各地域の在庫(地域在庫)も枯渇し始めるためだ。

『日経エレクトロニクス』2011年4月4日号より一部掲載

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