固有値の使い方としてもう1つ、「日経」らしく、景気予測を例題にしたいと思います。景気は良いか悪いか、どっちかしかないですね。ここではシンプルにやりますが、本気でやっても研究になります。景気に限らず、「良い」と「悪い」で考えられるものには応用できて面白い。
去年って、景気はどうでしたっけ。悪かった。今年も景気が悪い。毎年毎年、景気が良い悪い、良い悪いって来るじゃないですか。それを式にしましょう。
景気が良い年があって、その次の年は良い年になるか、あるいは悪い年になるかどちらか。景気が悪い年の次もどうなるかで、合計4通りの可能性があります。
それで、過去の統計から、良い年で次の年も良かった場合が幾つあったか、良い年で次は悪かったのが幾つかそれぞれ数えます。ここを確率で考えて、良い年の翌年も良い確率をpとしましょう。良い年から悪い年に変わるのは1-pです。確率ってトータルで1ですから。同じように、悪い年の次の年も悪い確率をqとすると、良い年に変わるのは1-qです。
pとqさえ押さえてしまえば、来年どうなるか分かります。では10年後、20年後、30年後どうなるか。もう気がついていると思いますが、計算できちゃいます。
これを式に書きますね。良いのと悪いのはGoodとBadで、それぞれGとBとしましょう。ある年はnにすると、次の年はn+1ですね。GnとBnにそれぞれ次の年は良くなる確率を掛けて足し合わせると、Gn+1になります。Bn+1も同じように式ができて、2本の連立方程式になります。
さあ複雑になりました。こういうのを専門用語では「マルコフチェーン」といいます。マニアは喜ぶ言葉ですよ。
〔以下、日経ものづくり2011年4月号に掲載〕
東京大学 教授