4気筒から3気筒、3気筒から2気筒。燃費の良さを売り物にする小型車は、気筒数の少ないエンジンを積むことが多くなった。気筒数が少ないと、燃費は良くなり、小型にもできる。それと引き換えに、間違いなく振動・騒音は大きくなる。それを克服し、燃費と振動・騒音を両立する技術が登場し始めた。4気筒エンジンの出番がなくなる時代が来るかもしれない。

Part 1:小さなエンジン、少ない気筒

減らせば減らすほど 効率に有利、振動に不利

クルマがどんどん小さくなる。エンジンが小さくなり、それに従ってエンジン排気量も小さくなる。一方、1気筒あたりの排気量には最適値があるから、気筒数も減る。こうした事情で3気筒、2気筒エンジン搭載車が増加しつつある。3気筒の最大の弱点であるアイドリング振動は、アイドリングストップをはじめとする新技術が普及することによって、問題にならなくなることも普及を後押しする。

 ことし11月、トヨタ自動車がダイハツ工業から3車種のOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けて軽自動車に参入する。これで日本の乗用車メーカー8社がすべて軽自動車を手がけることになる。「小さなクルマがおいしい」と考えられている証拠である。現実に、軽自動車の保有台数に占める構成比は増え続け、現在では35%を超えている(図1)。
 さらに先がある。軽より小さなクルマの市場ができる可能性が出てきた。ことし2月、国土交通省は軽自動車より小さな自動車の規格を設ける方針を決めた。2人乗りに限定し、高速道路を走らないという前提で最高速度を80km/hに抑える。衝突試験などの条件もそれを前提にするから、現在の軽自動車よりかなり軽く、安くできる。
 具体的な規格は決まっていないが、エンジンは現在の軽よりも小さくなる可能性が高い。EVやハイブリッド車も視野にあるから、単純にエンジン排気量ではクラスを分けない可能性もある。いずれにしても、現在の軽自動車の下に、新たなクラスができそうだ。

以下、『日経Automotive Technology』2011年5月号に掲載
図1 総保有台数に占める軽自動車の推移
各年3月末現在、出典は全国軽自動車協会連合会。

Part 2:1L超えでも3気筒

振動・騒音で4気筒に負けない ウエイト、マウントにそれぞれの工夫

日産自動車が1.2L、AVL/Renault社が1.1L、Lotus社が1.3L。以前ならば迷わず4気筒にする排気量だ。燃費を重視する現在、各社とも3気筒を選択した。このうち日産、AVL/Renaultは比較の対象となる4気筒エンジンに比べて、騒音・振動で同等以上にするという方針で設計に臨んだ。

 排気量が1Lを超える、少し大きめの3気筒エンジンを開発した日産自動車、オーストリアAVL社の2社は、良く似たルールで自分を縛った。日産は「4気筒並みの『音振性能』の達成」、AVLは「4気筒エンジンと同等のNVH性能の確保」。3気筒エンジンを「音や振動と引き換えに経済的」と言われる地位から引き上げようという明確な意思が、ここにはある。
 2010年7月、日産自動車は小型乗用車「マーチ」を全面改良した。この際に4気筒エンジン「CR12DE」から3気筒の「HR12DE」に切り替えた。従来からある4気筒の「HR16DE」から1気筒を減らして3気筒にした。
 燃費性能は例えば2000rpmでのBSFC(Blake Specific Fuel Consumption)をCR12DEより13%改善した(図2)。BSFCはエンジンの燃費性能を排気量にかかわらず横並びで評価できる指標である。
 13%の内訳は、摩擦損失の低減が6%、EGR(排ガス再循環)による改善が3%、EGR以外の熱効率改善分が4%と同社は見積もっている。

以下、『日経Automotive Technology』2011年5月号に掲載
図2 2000rpmの条件で燃費率(BSFC)を比較
「CR12DE」に比べ「HR12DE」は燃費が13%改善した。

Part 3:行き着く先は2気筒か

不等間隔爆発で2次振動を抑える トルク変動には巨大なフライホイール

今のところ、4輪車で現実的に一番少ない気筒数は2気筒だ。振動を減らすことは、3気筒よりさらに難しいが、各社それぞれに対策をした。既に商品化したイタリアFiat社は1軸のバランスシャフトを使った。オーストリアAVL社はレンジエクステンダの利点を生かし、不等間隔爆発を選択した。YGKはフライホイールを大きくしても応答性が下がらない技術を開発した。

 3気筒の下にはさらに2気筒がある。間違いなく燃費は良くなるのだが、振動が増えることも、また間違いない。ユーザーの反応を考えると、2気筒という選択をするのは勇気のいる判断だ。
 その判断を既にしてしまったのが イタリアFiat社。ことし3月、フィアット グループ オートモービルズ ジャパンは「500ツインエア」を日本で発売した(図3)。直列2気筒、ボア80. 5×ストローク86.0mm、排気量875mLのターボ過給エンジンを積む。今、日本に正規輸入している唯一の2気筒車だ。もちろん国産車にはない。
 圧縮比はポート噴射の過給エンジンとしては高い10.0:1。ヘッドは各気筒2弁で、カムと油圧を併用した可変弁開閉機構「MultiAir」を採用した。最大トルクは154N・m/1900rpm、最高出力は63kW/5500rpm。
 10・15モード燃費は、今までの4気筒車より30%向上、出力を23%増やした。4気筒車は排気量が1.2Lの気筒あたり2弁、自然吸気である。ただし、こうした伸びの一部は排気量を減らして過給をしたこと、「MultiAir」やアイドリングストップの貢献も大きく、気筒数だけでは説明できない。

以下、『日経Automotive Technology』2011年5月号に掲載
図3 イタリアFiat社の「500ツインエア」
イタリア市場では2010年9月から販売していた。

Part 4:軽自動車用エンジンは燃費勝負

小径プラグでボアを小さく しっかり冷やして点火時期を早める

軽自動車は元々3気筒、“ガラパゴスエンジン”である。1気筒あたりの排気量は最適値とはほど遠い220mL。各社は快適性でなく燃費で戦うことになる。2輪譲りの小径プラグを生かしてロングストロークにしたエンジンが現れた。冷却を強化し、点火時期を早めることによってトルク、燃費を向上したエンジンもある。

 軽自動車の3気筒エンジンは、これまで紹介してきたような1気筒あたりの排気量を真剣に検討し、最適値を追求してきたものとは違う。3気筒で660mL、1気筒あたり220mLと小さく、振動に関しては贅沢な“多気筒エンジン”なのである。ダイハツ工業が現在開発を進めている2気筒にしても330mLしかなく、まだまだ小さい。
 となると、軽自動車用3気筒エンジンの戦いどころは振動ではなく燃費ということになる。スズキは、この1月に登場した新エンジン「R06A」を開発するに当たって、何をおいても燃費を追求した(図4)。優先順位は燃費に続いて低回転でのトルク、振動・騒音、軽量化の順である。振動・騒音は3番目の課題に過ぎない。

以下、『日経Automotive Technology』2011年5月号に掲載
図4 スズキが「MRワゴン」から搭載を始めた「R06A」エンジン
自然吸気、ターボ過給の2種類があり、写真はターボ過給。