雑誌 特集

Googleが仕掛ける特許破壊

動画フォーマット「WebM」の波紋

大森 敏行,竹居 智久=日経エレクトロニクス
2011/02/18 09:00
 

第1部<WebMのインパクト>
「ロイヤルティー・フリー」の
危ういバランス

Google社がH.264に代わって普及させようとしている動画フォーマットが「WebM」だ。ロイヤルティー・フリーをうたうが,既存特許に抵触する可能性が指摘されている。特許訴訟を回避するため,Google社はWebMに“ある仕掛け”を埋め込んだ。

WebMの構成

 「米Google Inc.がH.264のサポートを打ち切る」。このニュースにインターネット業界が騒然となった。Google社が2011年1月11日,同社が開発した Webブラウザー「Chrome」において動画フォーマットの一つである「H.264/MPEG-4 AVC(以下,H.264)」のサポートを2カ月後に打ち切ると突如発表したのだ。Chromeはこれまで動画フォーマットとしてH.264 と,Google社が中心になって普及を進めている「WebM」の両方をサポートしていたが,今後はWebMだけに注力するという。Google社は,動画配信サービス「YouTube」でも積極的に動画をWebMに変換している。今回のニュースは「YouTubeでも将来的にH.264が使われなくなる可能性」を暗に示している。

 Google社は,H.264のサポートを打ち切る理由を「ロイヤルティーの存在」だとしている。H.264は,無料の動画ストリーミングを提供する事業者に限っては無料で利用できるものの,それ以外の用途で利用するメーカーや事業者は,特許プール管理会社である米MPEG LA, LLCを通じてロイヤルティーを支払う必要がある。Google社は「ロイヤルティーは当社にとってはそれほど負担ではないが,動画分野のベンチャー企業には障害になる。また,将来にわたってロイヤルティーが上がらない保証はない」と主張する。一方,WebMはロイヤルティー・フリーをうたっているため,現時点ではメーカー,エンド・ユーザーを問わず,誰でも無料で利用できる。

 Google社がH.264を捨ててWebMを推進する姿勢を鮮明にしたことで,インターネットにおける動画フォーマットが二つの陣営に分裂することが決定的になった。

 背景にあるのは,HTML5における動画の標準をめぐる主導権争いだ。HTML5ではvideoタグを使って動画をWebページに直接埋め込めるようになるが,HTML5の仕様ではvideoタグの標準動画フォーマットは規定されていない。このため,各陣営がHTML5における動画フォーマットのデファクト・スタンダードの座を争っているのだ。

『日経エレクトロニクス』2011年2月21日号より一部掲載

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第2部<コーデックの実像>
H.264と共通点多いVP8
Web向けの工夫も一部に

WebMが採用する動画コーデック「VP8」は,H.264との類似性が指摘されている。VP8の詳細を分析すると,多くの共通点が見えてきた。Webでの利用に向く独自の工夫を盛り込んだVP8。その実像に迫る。

VP8の処理の流れはH.264とほぼ同じ

 「VP8とH.264は,多くの点で類似している。両者の差は,H.264と他のMPEG系統のコーデックとの差に比較して,はるかに小さい」──。オープンソースの動画コーデック・ソフトウエア開発者として著名なJason Garrett-Glaser氏は,こう指摘する。動画コーデック関連の研究に携わる早稲田大学 大学院国際情報通信研究科 教授の渡辺裕氏も「VP8とH.264の中身はかなり近い」とみる。

 米Google Inc.が2010年5月にロイヤルティー・フリーをうたって公開した「WebM」は,動画コーデックに「VP8」を用いる。そもそもは,米On2 Technologies, Inc.(Google社が2010年2月に買収を完了)が開発したものだ。このVP8は,広く使われている動画コーデック「H.264/MPEG-4 AVC」(以下,H.264)と,具体的にどこが異なるのだろうか。

画質ではH.264に軍配

 Google社が公開したVP8の仕様書や符号化/復号ソフトウエアから見えてきたのは,「H.264 Baseline Profileとほぼ同一で,Web用途に適した特徴を持たせる独自の工夫を一部に盛り込んだ動画コーデック」という実像だった。H.264の Main ProfileおよびHigh Profileという圧縮率が高い規格に含まれる処理の多くを省略しているため,これらの規格に比べると画質は劣る。その代わり,復号器が確保するメモリ容量が少ない,符号化/復号の遅延時間が短い,といった利点がある。動画を使った双方向コミュニケーション,例えば動画中継やテレビ電話などに適した動画コーデックといえる。

『日経エレクトロニクス』2011年2月21日号より一部掲載

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