フェライト磁石を使うモータは、トルクが低い、不可逆減磁しやすいという課題があり、クルマの駆動用に使うという動きはなかった。今回、従来の電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)のモータ構造とは異なるアキシャルギャップ型の構造を使い、フェライト磁石のモータでありながら市販のHEVと同等の出力密度を達成した。

 北海道大学は、ハイブリッド車(HEV)向けの駆動用モータを開発した(図)。Nd(ネオジム)系磁石の代わりにフェライト磁石を使いつつ、既存のNd系磁石の駆動用モータと同等の性能を確保した。フェライト磁石は、トルクが低い、不可逆減磁しやすいという課題があった。今回これらの課題を解決し、市販のHEV(2003年発売のトヨタ「プリウス」)の駆動用モータと同等の体積で、同等の出力51.5kWを達成した。
 駆動用モータとして、二つの新しい構造を採用している。(1)既存の電気自動車(EV)やHEVとは異なるアキシャルギャップ型モータ、(2)独自のロータ構造としてフェライト磁石と圧粉鉄心を交互に配置する「セグメント構造」である。これらの詳細は後述する。
 これまでNd系磁石は、フェライト磁石に比べて磁石の性能が高い理由から、駆動用モータに使われてきた。性能の指標であるエネルギ積(残留磁束密度×保磁力)を見ると、Nd系磁石はフェライト磁石より約10倍程度高い。
 ただし、Nd系磁石の成分である希土類は、世界の産出量の90%を中国に依存しているという制約がある。中国が希土類の供給を制限すれば、日本の競争力が損なわれることになりかねない。Nd系磁石の調達リスクを回避するためにも、資源量が豊富なフェライト磁石の活用を考える必要がある。

以下、『日経Automotive Technology』2011年3月号に掲載
図 北海道大学が開発したフェライト磁石を使う駆動用モータ
1枚のロータ面を2枚のステータ面で挟む、アキシャルギャップ型モータの構造を採用。既存の電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)は、ステータの軸方向の内側にロータを配置するラジアルギャップ型モータを採用していた。