第1部<インパクト>
ネット業界からの新提案が
「最後の挑戦」の号砲を鳴らす
2010年10月に搭載製品が姿を現したテレビ向けソフトウエア基盤「Google TV」。着々と進むWebサービスや高性能ハードウエアのネット・テレビ対応を背景に登場した。積年の大テーマ「インターネットと放送の融合」を舞台にテレビ・メーカーが最後の挑戦に臨む。
「Cord cutting」(コードを切る)という,いささか乱暴な印象の言葉が,米国で映像や放送,通信関連のビジネスに携わる関係者の間で大論争を巻き起こしている。「コード」が指すところは,ケーブルテレビ(CATV)やデジタル衛星放送といった,全米に張り巡らされたテレビ向け映像サービスの回線だ。 CATVや衛星放送などを合わせた契約数は,実に1億件を超える。これらの回線を「切る」とは,利用者が契約を打ち切るという意味である。乗り換える先は,インターネットを使った動画配信サービスだ。
パソコン向けで広がったネット動画配信サービスが,次の配信先として狙うのは「テレビ」である。家庭向け映像ビジネスの本丸に入り込んだネット動画が,CATVや衛星放送のビジネスを本格的に脅かす存在になるかもしれない──。この危機感が「Cord cutting」という言葉を生んだのだ。
ネット動画を取り込むテレビ
こうした状況下で登場したのが,米Google Inc.や米Intel Corp.,ソニーが共同開発したテレビ向けソフトウエア基盤「Google TV」だ。2010年10月にこの基盤を搭載した液晶テレビやBlu-ray Disc(BD)プレーヤーを発売したソニーに続き,2011年後半以降には複数の大手メーカーがGoogle TV対応機を投入するもようである。メディア企業や映像サービス事業者は,インターネット業界からの新提案を注視している状況だ。
ネット動画とテレビの結び付きが強まる動きは,米国だけの話ではない。欧州でも,放送局がパソコン向けにインターネットで無料配信するテレビ番組の見逃し視聴サービスをテレビで楽しむ視聴スタイルが広がった。ネット動画の勢いを取り込むため,欧米ではWebサービスの利用機能を搭載した薄型テレビ,いわゆる「ネット・テレビ」の開発競争が激しさを増す。米Apple Inc.が開発した「Apple TV」のように,テレビに接続してネット動画を視聴するセットトップ・ボックス(STB)型の専用端末の発売も相次いでいる。
テレビ業界の論争に一石
Google TVが注目を集める理由は,冒頭で紹介した「Cord cutting」の論争に新しい視点で一石を投じたことにある。Google TVは,ネット動画配信とCATVなど既存の映像サービスを,テレビを使って同じ土俵で扱う枠組みを提案した。
第2部<Google TV分解>
「放送は単なるソースの一つ」
内部構造に表れる強烈な思想
本誌が入手した,ソニーのGoogle TV対応テレビを分解した。テレビ基板は従来のテレビ製品から流用したと考えられる。新たに追加された情報処理基板こそがGoogle TVの中核だ。
ソニーのGoogle TV対応製品は,どんな設計思想に基づいて開発されているのか。それを調べるために,本誌は同社のGoogle TV対応24型液晶テレビ「NSX-24GT1」を独自に入手し,テレビ関連の技術者の協力を得て分解を行った。
Google TVの最大の特徴は,動画の検索機能である。文字を入力するために,QWERTYキーボードを搭載したRFリモコンも付属している。そこで「ichiro」というキーワードで検索を行ったところ,50個の動画が見つかった。この製品は米国仕様であり,日本ではテレビ放送を視聴できない。このため,検索結果はすべてインターネットの動画である。
Twitterクライアントも標準で搭載している。手持ちのアカウントを登録してみたところ,ちゃんとタイムラインが表示された。送信やリツイート,お気に入りの閲覧といった操作もできる。
ホーム画面は,標準のAndroidとはかなり異なる。ただ,メニューを自由にカスタマイズできる点はAndroidの特徴を受け継いでいる。
「情報処理基板」を追加
NSX-24GT1が通常のテレビとどう違うのかを調べるために,今回はソニーの日本向け22型液晶テレビ「KDL-22EX300」も併せて分解した。NSX-24GT1の内部は,電源基板,テレビ基板,米Intel Corp.のデジタル・テレビ向けSoC「Atom CE4100」を搭載した情報処理基板で構成されていた。これに対し,KDL-22EX300は,ちょうどNSX-24GT1から情報処理基板を除いたような構成である。大まかには,Google TVは通常のテレビに情報処理基板を追加した構成だといえる。
第3部<課題への挑戦>
未来のテレビが満たすべき
新たな五つの要求
今後のテレビには,これまでにはなかった要求が生まれてくる。最も大きいのは「面白いコンテンツがどこにあるかを知りたい」という要求だ。コンテンツ制作者の確保やCMに代わる新たなビジネスモデルの構築といった課題もある。
テレビで視聴できるコンテンツが増えていくのは,視聴者にとって選択肢が増えるという意味で,基本的には望ましいことだ。しかし,現実にはさまざまな課題も生じる。
まず,個々のコンテンツが埋没してしまうため,面白いコンテンツを探しにくくなる。視聴時間も足りなくなる。人によって視聴するコンテンツが分散してしまうと,「共通の話題を提供する」という従来のテレビの機能も薄れてしまう。
提供者側の課題もある。まず,コンテンツ制作者の確保だ。視聴の分散による視聴率の低下にどう対処するかも重要である。CM放映という過去に大成功したモデルに代わる,新たなビジネスモデルを構築しなければならない。
こうした新たな課題に挑戦する,さまざまな試みを紹介する。