EV、HEVを駆動するモータには、小さいこと、軽いこと、安いことが要求される。そのために重要な基礎技術が「コイルの巻き方」。平角線をコアに対して立てて巻く。コアを分割せず、しかも高密度に巻く。素線を16本束ね、しかも交差しないように巻く。こうした工夫がモータの性能に、ひいてはEVの性能に直結する。

 EV(電気自動車)、HEV(ハイブリッド車)を支えるモータ技術。電池のように性能が倍々で伸びていく分野ではないが、おろそかにすれば競争から脱落する。まだ進歩の“伸びシロ”が残っているからだ。
 モータの主要部品であるコイルは、占積率を軸に進化している。コイルを電気の流れと直交する面で切ったときの断面積のうち、実際の素線の断面積が占める割合が占積率である。占積率が上がれば、小さく、軽く、強力なモータができる。

いつかはエッジワイズ

 「“エッジワイズ巻き”のコイルが使えないか」というのはモータ技術者の夢である。エッジワイズ巻きは素線の縁(エッジ)をコア(鉄心)に当て、素線をコアに対して立てたまま巻いていくコイル(図)。放熱性が良く、モータの出力を上げることができる。
 その夢に一歩近づくための技術が現れた。PEEK(ポリ・エーテル・エーテル・ケトン)製の絶縁テープである。PEEK樹脂を販売するビクトレックスジャパンは、トーワテック、浦谷エンジニアリングと共同で、このテープを利用して平角線を高密度にエッジワイズ巻きする加工技術を開発した。
 エッジワイズ巻きは少量生産なら大正時代からある技術。EVでもリアクトルなど小規模なものでは既に実用になっている。しかし、モータ用、まして大型の自動車用モータには使われていなかった。

以下、『日経Automotive Technology』2011年1月号に掲載
図 PEEKテープで絶縁したエッジワイズ巻きのコイル
テープを斜めに巻いているところが見える。角が加工で大きく変形しているが、テープもそれに追従している。