富士フイルムは2000年代に入って、主力の写真用フィルムの売り上げが急減。銀塩フィルムが不要なデジタルカメラの急速な普及が、その原因である。迫り来る危機の中、新規事業として挑んだのは全く畑の違う化粧品事業だ。しかしそこには、お家芸のフィルム技術を生かせるフロンティアがあった。

 日本的経営が世界から賞賛を浴びていた1980年代に、国内で5割を超える圧倒的なシェアを誇る製品が3つあった。1つはキリンビールの「ラガー」、2つめはNECのパソコン「PC-9801」シリーズ、そして富士フイルムの写真用フィルムだ。同社のシェアは7割を超えていたとされる。

 キリンのラガーは、アサヒビールの「スーパードライ」、さらには低価格の発泡酒や第3のビールなどに押されていき、NECのPC-9801もWindowsが登場するとシェアを急速に失う。フィルムは比較的長く生き残るものの、やはり時代の変化とともに縮小していく。1990年代前半にデジタルカメラが登場し、市場が激変した。フィルムの需要は2000年をピークに一気に減少し始めた。

 銀塩カメラに代わりデジタルカメラが台頭した2000年、富士フイルムの中で新たな挑戦が始まる。長年培ってきたフィルム技術を生かした、新分野への進出だ(図)。

〔以下、日経ものづくり2010年11月号に掲載〕

図●抗酸化成分が写真の退色を抑える
(a)は、抗酸化成分を添加して25年相当の経時劣化を試験したものだが、ほとんど退色していない。(b)は、同じ試験を抗酸化成分なしで実施したもの。こちらは明らかに退色している。こうした抗酸化技術を化粧品に応用した(c)。