影響があちこちに飛び火

 メモリをはじめとする半導体,受動部品,外部記録装置,ディスプレイ…。電子機器を支える中核部品について,需要に供給が追い付かない事態が2009年夏以降,巻き起こっている。

 2010年に入り,機器メーカー各社から悲鳴にも似た叫び声を聞く機会が多くなった。例えば,パナソニックは「関連部品の調達遅れ」(同社発表資料)が原因で,5月24日に液晶テレビ,6月18日にはカーナビの発売延期をそれぞれ発表した。

 2010年7月になると,部品不足に起因する騒動はさらに深刻化する。(中略)多くの機器メーカーにとって,部品メーカーを選り好みできる時代が終わろうとしている。

『日経エレクトロニクス』2010年10月4日号より一部掲載

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第1部<問題の本質>
存在感増す部品メーカー
供給不安は今後も続く

2009年夏ごろに始まった主要部品の供給不足が電子機器業界を揺るがしている。この問題は,機器メーカーと部品メーカーの力関係が変化しつつあることの表れである。機器メーカー各社は,必要な部品を安く確実に調達するための対策を講じ始めた。

力関係が変わった

 「以前のような『上げ膳据え膳』の関係では,部品を安定的に調達できなくなる。部品メーカーとの新たな関係構築が必要不可欠だ」(ソニー 業務執行役員 SVP 調達本部 本部長の高野瀬一晃氏),「長期契約や事前支払いなどの関係構築を結んでいる機器メーカーは問題ないが,『いつでも安く買える』と考える機器メーカーは DRAMの調達に苦労するだろう」(大手DRAMメーカーの経営トップ)。

 薄型テレビやパソコン,携帯電話機などを手掛ける機器メーカーと,DRAMやNANDフラッシュ・メモリをはじめとした半導体,積層セラミック・コンデンサ(MLCC)のような受動部品,HDD,液晶パネルなどを手掛ける部品メーカーの関係が変わりつつある。これまでは,機器メーカーと部品メーカーの間には,「買い手優位」という明確な力関係が成立していた。ところが,ここにきて部品メーカーの存在感が高まり,機器メーカーとの力関係が均衡しつつある。

 それどころか,部品の需給状況によっては冒頭のコメント通り,大手部品メーカーが取引相手の機器メーカーを選ぶといった事態すら珍しいことではなくなってきたのだ。

 こうした力関係の変化に直面しているのは,米Apple Inc.や韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.など,「独り勝ち」を続ける一部の超大手機器メーカーを除く大半の電子機器メーカーである。ソニーをはじめとした国内大手機器メーカーも例外ではなく,その波にのまれようとしている。

『日経エレクトロニクス』2010年10月4日号より一部掲載

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第2部<ソニーの改革>
スケール・メリットを徹底追求
部品メーカーとの関係を強化

ソニーが,部品調達体制の大掛かりな見直しを進めている。Apple社やSamsung社などの競合メーカーの躍進。製造拠点のEMSへのシフト。こうした環境の変化に対応すべく,推進中の取り組みを本誌に明らかにした。

これまで見えていなかった懸念要因が顕在化
(図:ソニーの資料を基に本誌が作成)

 「我々が絶対的ナンバー・ワンの存在だった時代は終った」──。

 ソニー 業務執行役員 SVP 調達本部 本部長の高野瀬一晃氏は,同社が置かれている立場を,このように語る。民生機器分野では,米Apple Inc.や韓国Samsung Electronics Co., Ltd.の競争力が際立ち始めている。これに伴い,大手部品メーカーにとって,最重要顧客はApple社などに移りつつある。さらに,機器の製造拠点が中国や台湾のEMS(製造受託企業)へ移り,部品メーカーの目はEMSに向くようになった。

 こうした中,ソニーが,かねて進める部品調達体制の刷新について,その詳細を本誌に明らかにした。

『日経エレクトロニクス』2010年10月4日号より一部掲載

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第3部<主要部品の需給動向術>
極端な供給不足は解消も
多くの部品で需要は旺盛

2009年夏から2010年前半に,機器の主要部品が軒並み供給不足に陥った。ここにきて不足感は緩和されつつあるが,依然として需要に供給が追い付かない品種は多い。その要因はどこにあるのか。今後の需給動向と併せて分析した。

2009年後半から2010年前半に供給不足になった主な部品

 2009年夏以降に深刻な供給不足に陥った部品は,DRAMやNANDフラッシュ・メモリ,積層セラミック・コンデンサ(MLCC),HDD,大型液晶パネル・モジュール,などだ。いずれも「過去に経験したことのない不足度合いだった」と機器メーカーが口をそろえる。

 2010年後半には,このような極端な供給不足は解消に向かいそうだ。ただし,その程度は部品の種類によって温度差がある。

 DRAMやNANDフラッシュ・メモリは,依然として需要が供給を大きく上回る見込みである。特にDRAMでは,製造技術面の難しさなどから,メーカーが生産能力を急には高めにくいからだ。MLCCは旺盛な需要を背景に,各社が増産に乗り出しており,やや需給に不透明感が出てきた。

 一方,HDDと大型液晶パネル・モジュールは,品種や用途ごとに状況に差が生じる方向である。HDDでは,携帯機器向けの2.5インチ品が2010年 4~6月に供給過剰に陥ったが,3.5インチ品は需給に逼迫感がある。大型液晶パネル・モジュールは,一般的な品種では供給過剰気味だが,テレビ向けに引き合いが強いLEDバックライト搭載品では供給不足が続いている。

 これらの主要部品の需給動向を紹介する。

『日経エレクトロニクス』2010年10月4日号より一部掲載

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