第1部<動向>
短焦点と超小型が牽引
プロジェクターがあらゆる所へ

短焦点プロジェクターとピコ・プロジェクターを中心に,さまざまな新技術が投入され始めた。今後,大きな伸びが期待されるからである。この新技術をさらに進化させることで,未体験の映像表示の世界が生まれそうだ。

ピコ・プロジェクターはテレビ代わりに,短焦点では壁がディスプレイに

 「2015年度に売上高1500億円を目指す」──。2010年3月,リコーはこう宣言し,ある新規事業を立ち上げた。その名は,「プロジェクションシステム(PJS)事業」。同事業では自らプロジェクターを製造し,プロジェクターを利用したサービスやソリューション事業まで手掛ける。これまで同社は,プロジェクターに使う光学部品の製造・販売,他社のプロジェクター製品の販売などを手掛けてきた。今後はこうしたプロジェクター関連の事業をさらに拡大する考えである。

 1500億円という売上高は,セイコーエプソンのような大手プロジェクター・メーカーの現時点でのプロジェクター事業の売上高を上回る金額だ。リコーがこうした積極的な姿勢を見せているのは,プロジェクターが市場的にも技術的にも,今後大きく発展するとみられているからだ。中でも牽引役となるのが,従来と同様に据置型ながら焦点距離が非常に短い「短焦点プロジェクター」と,携帯電話機に搭載できるほど小さいプロジェクター,いわゆる「ピコ・プロジェクター」である。いずれも今後,出荷台数が大幅に伸びる可能性がある。

 短焦点プロジェクターを使えば,所望する大きさの映像を得るために必要な距離が短くて済む。スクリーンのそばに設置できるため,通常のプロジェクターよりも配置の自由度が高い。ピコ・プロジェクターであれば小さくて軽いので,持ち運べて設置が容易,あるいは身に着けたりして利用可能だ。現在,プロジェクターはこの2種類を中心に,さまざまな新技術が投入されている。

 今後,こうした流れが続くことで,今までにない新しい映像表示の世界が生まれる可能性がある。

『日経エレクトロニクス』2010年8月9日号より一部掲載

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第2部<実装技術>
レーザ・プロジェクターを分解
熱設計と緑色光に腐心

Microvision社の外付け型ピコ・プロジェクターとカシオ計算機の据置型プロジェクターは,今後のプロジェクターのキー部品であるレーザやLED を光源に使う。最新機種であるこれら2台の構造を分析し,レーザやLEDを利用するプロジェクター設計の現状を探った。

これがレーザ・ピコ・プロジェクターだ

 超小型や短焦点といったさまざまな場所で使えるプロジェクターは,小ささや可搬性などを追求すると,いずれ光源にレーザやLEDを用いることが必須になるだろう。レーザやLEDといった新光源を用いると,熱設計や光学設計,利用する各種光学部品などプロジェクターの構造やその設計が,ランプ光源を用いる従来と比べて大きく変わる。

 今回は,レーザやLEDを使ったプロジェクターの最新機種である米Microvision,Inc.のピコ・プロジェクター「SHOWWX」と,カシオ計算機の据置型プロジェクター「グリーンスリム プロジェクター」を分解し,新光源を使う勘所を調べた。後者は短焦点ではないが,光源の設計手法が短焦点での参考になるだろう。

『日経エレクトロニクス』2010年8月9日号より一部掲載

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第3部<要素技術>
ピコ・プロジェクターの汎用化
目標はカメラ・モジュール並み

ピコ・プロジェクターを携帯電話機向けカメラ・モジュールのような汎用品にできればさまざまな機器に搭載可能になり,一気に普及する。カギを握るのは,光源と表示素子である。目標達成に向け,小型化や消費電力削減,コスト低減に向けた開発が活発だ。

要素部材の進化の方向性

 「いつでも」「どこでも」利用できる映像表示機器を実現するには,ピコ・プロジェクターの利用が不可欠である。どこにでも置けるほどプロジェクターを小さくしたり,携帯機器に容易に内蔵したりすることで,可搬性と設置性が大幅に高まるからだ。さまざまな機器に内蔵可能になれば搭載例は一気に増え,プロジェクターが街にあふれだすだろう。

 ピコ・プロジェクターは,短焦点プロジェクターと比べてまだ歴史は浅く,技術的にも改善する余地が大きい。中でも,光源や表示素子が収まり,特性を大きく左右する光学モジュールの改善に大きな期待が集まる。

 光学モジュールにおいて重要な仕様は,(1)厚さや体積といった大きさ,(2)消費電力,(3)明るさや画素数などの表示性能,(4)価格,などである。さまざまな機器に搭載できるようになるには,(1)~(4)が一足飛びで進化するのではなく,中間ステップを踏んで要求水準に達することとみられる。

『日経エレクトロニクス』2010年8月9日号より一部掲載

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