最初、「音力発電」(本社神奈川県藤沢市)という社名を聞いて、音楽関係のプロダクションかと思った。音楽のチカラでハートに電気を起こす──。そんな、シャレたネーミングの会社ではないかと思ったのだ。それが、本当に音や振動で発電する装置を開発している会社だと知り、別の意味で驚いた。圧電素子(ピエゾ素子)に力をかけると素子がひずんで電気が起きるのは誰でも知っている。だから、原理的には音や振動で発電することは可能だ。しかし、その発電装置を実際に製品化しているというので、本当にビックリしたのである。

 圧電素子を床に敷き詰めた発電装置の上を人が通ると人の踏む力によって電気が起き、LEDが発光して誘導灯となる。これだと確かに、LED用の電源は要らないから便利である。しかし、大変失礼ながら、少しでも圧電素子のことを知っている者ならば、この発電装置を実用化しようとは考えないはず。圧電素子をいくら踏んだところで、発電量はごくわずか。LEDを一定時間発光させるレベルにはとても足りないと思うからだ。

 第一、踏んだ瞬間、まさに一瞬光るだけであろうから、それが役に立つとは考えにくい。圧電素子の特性を知る技術者ならば、現実的ではないと言うに違いない。

 しかし、どっこい、発電素子を踏むと発電する「発電床」は、既に実用化されている(図)。ダンサーが踊ると動きに連動して床が光るディスコも現れたほか、あるサッカースタジアムでは2010年の秋までに本格的に設置されるという。

〔以下、日経ものづくり2010年8月号に掲載〕

図●発電床を手でたたいているところ
LEDは取り外し、見えるようにしてある。

多喜義彦(たき・よしひこ)
システム・インテグレーション 代表取締役
1951年生まれ。1988年システム・インテグレーション設立、代表取締役に。現在、40数社の顧問、日本知的財産戦略協議会理事長、宇宙航空研究開発機構知財アドバイザー、日本特許情報機構理事、金沢大学や九州工業大学の客員教授などを務める。