ネットブック市場を数年で追い抜く

 米Apple Inc.が2010年4月に米国で発売した「iPad」が,「タブレット端末」という新たな市場を切り開いた。発売前には「タブレットという形状に決して目新しさはない。話題になることはあっても,それほど売れないだろう」との冷ややかな見方もあった。だが,フタを開けてみれば,出荷台数は発売後1カ月足らずで100万台を突破,80日で300万台以上を売り上げた。調査会社のディスプレイサーチは,iPadは2010年に世界で約970万台,そのうち日本で約46万台が販売されると予測している。

 今後著しい成長が見込まれるタブレット端末市場で,メーカーがiPadに対抗していくにはどうすればいいかを考察する。

『日経エレクトロニクス』2010年7月26日号より一部掲載

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第1部<現状分析編>
ハードウエアだけでは不十分
本質はアプリ配信基盤

iPadは,パソコンの使いにくさを解消することでヒット商品になった。ハードウエアとして見れば,ネットブックとそれほど違うわけではない。最大の違いは,アプリ配信基盤が整備されている点にある。

ネットブックに続く大変革

 「iPad」はなぜ売れたのか。その背景にあるのが,Windowsをベースにしたパソコンの使いにくさである。

 1989年に初めて登場したノート・パソコンは,パソコン分野に「持ち運び」という新しい概念をもたらした。次の大きな変革は,2007年に登場したネットブックである。「Webサイトを見たり,メールを使ったりできればいい」と用途を割り切り,5万円以下というそれまでは考えられなかった低価格を実現することで,大きな市場を短期間で築いた。

 ただし,ネットブックは従来のノート・パソコンの欠点をそのまま受け継いでいる。「起動に時間がかかる」「電池駆動時間が数時間と短い」「直感的ではないマウス(タッチパッド)によるユーザー・インタフェース(UI)」などである。ネットブックは結局,「安いだけが取りえの使いにくいノート・パソコン」の域を脱することはできず,登場からわずか2年ほどで市場の成長が鈍化し始めた。

 近年,パソコンの用途の一部を担える端末として,米Apple Inc.の「iPhone」やAndroidを搭載した日スウェーデン合弁Sony Ericsson Mobile Communications ABの「Xperia」といったスマートフォンが急成長している。だが,スマートフォンは常時携帯を前提としているため,大きさに制限があり,画面が小さく見づらい。では,携帯性を若干犠牲にする代わりに,大きな画面を持つ端末を作ったらどうなるか。それがiPadである。

 パソコンではなくスマートフォンを基に開発されたiPadは,必然的に「一瞬での起動」「約10時間の電池駆動時間」「直感的なマルチタッチUI」といった優れた特徴を持つことになった。

『日経エレクトロニクス』2010年7月26日号より一部掲載

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<分解編>
誰でも作れる
超安価な「iPadモドキ」

 中国では「iPad」をまねたAndroid端末,通称「山寨iPad」が数多く販売されているという。その一つを編集部で独自に入手した。7型液晶を搭載し,iPadよりも小型・軽量の端末である。こうした製品は,日本でも大体1万円台で手に入る。

 まず,箱からしてiPadの物まねだ。

『日経エレクトロニクス』2010年7月26日号より一部掲載

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第2部<将来展望編>
iPadにない価値を提供
サービスとの統合がカギ握る

iPadの最大のライバルになりそうなのが,Androidを搭載したタブレット端末だ。既に海外や国内で,Android搭載タブレット端末が続々登場している。iPadとの真っ向勝負は厳しいが,ビジネスチャンスは多い。

各社が用意するタブレット端末向けOSとアプリ配信基盤

 好調な出だしを見せる米Apple Inc.のiPadだが,競合他社も指をくわえて見ているわけではない。タブレット端末に市場があることは,iPadが証明した。各社とも,タブレット端末向けのOSと,アプリケーション・ソフトウエア(以下,アプリ)の配信基盤をセットで用意し,iPadが切り開いた市場に割り込もうとしている。

 iPadのライバルとして最有力候補と目されているのが,米Google Inc.の組み込み向けソフトウエア・プラットフォーム「Android」である。Androidを採用したタブレット端末は,既に海外で続々と登場している。例えば,米Dell Inc.は5型液晶を採用した小型端末「streak」を,英国の携帯電話事業者であるO2を通して2010年6月に発売した。欧州では,ドイツ WeTab GmbHが発売予定の「WeTab」も注目を集めている。11.6型の液晶ディスプレイを搭載し,プロセサとして米Intel Corp.のAtomを採用した製品だ。ほかにも韓国Samsung Electronics Co., Ltd.や米Motorola, Inc.が,Androidを搭載したタブレット端末の開発を進めているといわれている。

 ソニーも,2010年5月にGoogle社と共同で「Google TV」を開発すると発表した際に,Androidを使った携帯機器を開発する方向性を示唆しており,タブレット端末の開発を検討しているもようだ。また,中国や台湾で製造されているiPadの模造品,いわゆる「山寨iPad」も,ほとんどがAndroidを搭載している。

『日経エレクトロニクス』2010年7月26日号より一部掲載

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