「垂直磁気記録方式の開発による高密度磁気記録技術への貢献」ということで、このほど2010年の「日本国際賞」を頂きました。30年前に東北大学電気通信研究所の一室で生まれた着想が世界各地に根付き、2010年中にはすべてのHDD(ハードディスク装置)が垂直磁気記録方式になるといわれるまでになった。自分で生み出した技術が量産化・市場化していく光景を直接見られるのは、技術者冥利に尽きる。研究は、みんなが造って、みんなが使って初めて完成ですから。
この垂直磁気記録方式は、磁化という現象を根本的に問い直すことにより、考え出されました。そのきっかけになったのが、ロシアの文豪、トルストイの「戦争と平和」。垂直磁気記録に直接結び付くわけではないけれど、その前の基礎理論を作る段階でヒントになった。
戦争と平和では、ロシアに侵攻する、ナポレオン率いるフランス軍の様子が描かれている。ボロジノの戦いでは、フランス軍が一見進んでいるようにみえるものの、兵力には多大な損失があった。このエネルギのロスが最終的な敗退の原因になったと、トルストイは「慣性の法則」を用いて詳しく説明しているんです。僕はこれをとても面白く読んでね、文学者でも、こういうものの見方をするんだと感銘を受けた。
〔以下、日経ものづくり2010年6月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 荻原博之)
東北工業大学 理事長