あなたがとびっきりのイノベーションのアイデアを持っていたとしよう。商品に組み込めば、今まで見たことも聞いたこともないような機能を実現できる。しかもそれは、顧客が心から望んでいる機能だ。もちろん、部署としての正式なプロジェクトではないので、自分の時間を使ってサーベイする。原理的には不可能ではない。技術開発の道筋は混こんとん沌としているが、致命的なデッドロックはないようにみえる。「技術的には筋がいい」。そう、あなたは確信する。
ある日、あなたは思い切って「この技術の可能性を探ってみたい」と、上司に相談する。ところが上司は迷惑そうな表情を浮かべ、「君には今、ほかにすべきことがあるんじゃないか」と不機嫌になる。まるで「言われたことさえやっていればいいのだ」と言いたげだ。あなたはガックリする。
いや、そんな無理解な上司ばかりではない。あなたの提案の価値と可能性を理解し、仕事としてその技術を検討してもよいと判断してくれる上司も、中にはいるだろう。そして検討を進め、満を持して役員会に提案。すると…。「開発にどれくらいの時間とカネがかかり、どれほどの利益が見込めるのか。その根拠は」「思い込みが強すぎる。そんな機能を顧客は欲しいと思うだろうか」などと集中砲火を浴びる。結局、あなたのアイデアは泡と消える。
〔以下、日経ものづくり2010年5月号に掲載〕
中央大学 大学院 経営戦略研究科 客員教授(元・ホンダ 経営企画部長)