パナソニックが,生活支援に向けたロボット事業に本格的に取り組み始めた。同社はグループ会社でFA機器を手掛けるほか,これまでにも各種ロボットの研究開発を進めてきた。2010年春には,国立障害者リハビリテーションセンターで実際の患者向けにロボットの実証試験を始める。車いすやベッドなどと,自動で分離・変形する「ロボティックベッド」である。2015年以降の実用化を視野に入れて開発を進める,同社のロボット研究開発担当部門の責任者に,家電メーカーが考える生活支援ロボットの姿を聞いた。 (聞き手は宇野 麻由子=日経ヘルス)

(写真:宮田 昌彦)

──「家庭向けロボット」を目指した開発は以前からありますが,現実にはほとんど普及していません。

 経済産業省などによって,ロボット市場拡大のロードマップが示されています。それによると,医療福祉分野や家庭分野などのロボット新市場の立ち上がり時期は,どんどん遅れています。理由は大きく二つあると考えています。一つは費用対効果,もう一つは安全性です。

 例えば,製造の現場では既にたくさんのロボットが使われています。日本は慢性的に労働者不足でした。そのため,ロボットを導入して高品質な製品を大量に造ることに意味があったのです。ところが,これはほぼ日本だけの話。製造業におけるロボット市場で,日本の市場規模は世界の7~8割を占めています。世界的には,工場でもロボットはそれほど使われていないのです。例えば中国の場合,ロボットを購入するよりも人を雇う方が安く済みますからね。

 日本でも,ロボットは工場から外に出られていません。つまり,ロボットが普及するには,人を雇う場合に比べて費用対効果が高い必要があります。

 もう一つの安全性の問題ですが,指定された空間内でロボットが稼働する工場と違い,家庭では何が起こるか分かりません。そこで,安全基準が必要になります。今は,国際的な安全基準を作ろうという段階です。

──パナソニックが掲げる,建物などの空間に埋め込んだセンサを利用してロボットを制御する「まるごとロボット事業」は,コストなどの問題にどう対応するのでしょうか。

 我々が考えるロボットの定義は,(1)知的判断,(2)情報収集,(3)作用,の三つの機能を備えるものです。(1)はコンピュータ,(2)はセンサ,(3)はアクチュエータと言えるでしょう。

『日経エレクトロニクス』2010年4月19日号より一部掲載

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