「勝つ設計」は、日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。安さばかりを求めて技術を流出させ、競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し、再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。

 前回、前々回と「創る」と題し、VE(Value Engineering)の優れた点や現在抱える問題点などについて触れた。今日の、世界を相手にしたものづくり競争に勝つには、いかに今までと変えるか、いかに競争力のある製品を創るか、そしていかに競争力のあるマネジメントをするか、にかかっている。「創る」と題した心は、勝敗を決する「いかに」の部分を大事に考えてほしいという願いからである。

 もう何年も前から、多くの日本の技術者がコンサルタントと名を変えて、BRICsをはじめ世界各地に散らばった。結果、多くの日本の技術が世界に浸透し、世界各地で「均質化」したものづくりができるようになったといって過言ではない。逆にいえば、今後世界で「勝つ」には、そうしたコンサルタントが持ち得ない技術で戦うことが肝要になる。

 幸い、VEのところで記したように、一見成熟した技術でも未完の部分はある。例えば、私が考案した「テアダウン(Tear Down)」。完成したかと思えば、多くの企業が行っているそれは「分解調査」の域を脱しない。確かに、「Tear Down」を直訳すれば「引き裂く、分解する」だが、私が考案したそれのコンセプトは「比較分析」。単なる分解調査とは違うのだ。つまり、こうした従来の技術でも、安易な方に流れて定着し、改良の余地を残すものが多々ある。

〔以下,日経ものづくり2010年4月号に掲載〕

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に、いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し、同社の原価改善を推し進める。その間に、いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し、日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certified Value Specialist)に認定、1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど、日本におけるVE、テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し、VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして今も、ものづくりの現場を回り続ける。