「プリウス」をはじめとする,トヨタ自動車の大量リコール問題──。米国では予期せぬ急加速の事例をはじめブレーキやステアリングなどの不具合の報告が連日寄せられ,話題を呼ぶ。一部では,自動車の電子化が進んだことが要因との疑いをかける向きも出てきた。電子制御に何らかの問題が本当に起こっているのか。技術的な側面から現在の状況を探る。

システムの電子化に疑いの目

 予期せぬ急加速の問題に端を発したトヨタ自動車の大量リコール(回収・無償修理)問題は,アクセル・ペダルだけではなく,新型ハイブリッド車のブレーキの不具合を加え,世界で延べ1064万台にも上る大規模なものに発展している。

 しかも米国では,まだトヨタ自動車に対する不信感はぬぐえていない。米議会下院の公聴会で,トヨタ自動車 代表取締役社長の豊田章男氏が証言を求められるなど,同社の存在を揺るがしている。特に急加速の問題については,アクセル・ペダルの物理的な不具合だけではなく,電子制御スロットル自体にも不具合があるのではないかとの声が絶えない。

 トヨタ自動車の大量リコール問題を技術的な側面で検証すると,(1)急加速の問題,(2)ブレーキの問題,(3)電動パワー・ステアリングの問題,の3項目に大別できそうだ。このうち急加速の問題は,アクセル・ペダルの不具合によって延べ1000万台を超える大量リコールにつながった。原因は二つあり,フロアマットに引っ掛かってしまうアクセル・ペダルの形状と,アクセル・ペダルの部品の不具合だった。どちらも機械部品に起因する問題で,現在のところ電子制御のプログラムには何ら不具合は見つかっていない。

電子制御の不具合はABSのみ

 実際,電子制御の不具合でリコールを実施したのは,プラグイン車を含む新型「プリウス」「SAI」「HS250h」に搭載されたブレーキ・システムのみである。急加速の問題で指摘されている電子制御スロットルや,2009年型と2010年型の「カローラ」で苦情が寄せられているという電動パワー・ステアリングの問題は,米高速道路交通安全局(NHTSA)が調査を始めた段階だ。本当に電子制御に問題があるのか,今後の調査に注目が集まる。

『日経エレクトロニクス』2010年3月22日号より一部掲載

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