「勝つ設計」は,日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。安さばかりを求めて技術を流出させ,競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し,再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。

 VE(Value Engineering)という,かくも素晴らしきコンセプトの手法を開発したのはLawrence D. Miles氏だ。そのコンセプトは,「機能を達成するには多くの方法がある。それを発想し, (規則などの)障害を乗り越えて,ライフサイクルにおいて最もミニマムなコストのものを選択する」というものだった。

 これに基づき,まず,米国で多くの技術者が具体的に実行すべき方法を作り上げた。日本でも,VE導入の立役者である産業能率短期大学(現・産業能率大学)の故・玉井正寿教授を中心に開発・研究が進んだ。1965年には,日本バリュー・エンジニアリング協会が設立され,VEの発展に重要な役割を果たしてきた。

 こうしてVEは,今では完成形に近い技法として出来上がった。しかし実務的には,使いこなせていない部分や陥りがちな「落とし穴」などさまざまな問題がある。なぜ,これらの問題が未解決なのか。答えは簡単だ。前回(2010年2月号)指摘した通り,実践経験が極めて乏しく論理中心になっているからである。事実,理論だけでは,現場で初めて出くわす問題に対応するのは難しい。現場の問題の解決には何より,現場の経験が必要なのだ。

 VEの本質と設計の本質はほぼ同意である。「設計が世の中から消えた」といわれるのは,(1)物を機能で考えない,(2)創造しない,(3)目標コストや使用環境といった制約条件をきちんと考慮しない,からだ。加えて,品質保証の概念が薄らぎつつある。逆にこれらを克服し,VEの本質を実践すれば,設計の出力がさらに増すことは間違いない。

〔以下,日経ものづくり2010年3月号に掲載〕

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に,いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し,同社の原価改善を推し進める。その間に,いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し,日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certifi ed Value Specialist)に認定,1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど,日本におけるVE,テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し,VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして今も,ものづくりの現場を回り続ける。