「iPhoneは発売直後に購入した」「来年は3次元表示(3D)テレビが欲しい」──。三重県にある東員病院の院長として活躍する村瀬澄夫氏は,エレクトロニクス業界の最新動向を常にウオッチしている。「子どものころからエレクトロニクスに強い関心があり,大学も情報工学科に入ろうと思っていたほど」(同氏)という個人的な興味だけではなく,医療の現場にエレクトロニクス技術を取り入れる可能性をいつも探っているからだ。村瀬氏は,IT技術を導入した新たな医療の形として,2005年に日本遠隔医療学会を立ち上げた人物でもある。「自分で動きださないと始まらない」(同氏)という考えから,現在は学会を離れ,実際の現場で遠隔医療による健康管理などの実践に奔走する。エレクトロニクス企業に対する期待を聞いた。(聞き手は小谷 卓也=日経エレクトロニクス)

(写真:早川 俊昭)

── 医療・健康の分野で今,エレクトロニクス企業に何を求めていますか。

 今後,ますます増えることになる高齢者をターゲットとした領域に,非常に大きなエレクトロニクス技術へのニーズがあるのではないでしょうか。

 階段にスロープを設置したり,室内に手すりを付けたり,あるいは施設にエレベーターを設置したり,いわゆるバリア・フリーはかなり進んできていて,対応製品などが既に大きな市場になっています。これらは,足腰などの身体機能が落ちてくる高齢者に向けた,“物理的なバリア・フリー”“体のバリア・フリー”と言えます。

 これに対して今後,強く求められてくるのは“精神(心理)的なバリア・フリー”“心のバリア・フリー”です。高齢者は脳の機能が低下してきますから,それを補う仕組みや道具が必要です。従来の物理的なバリア・フリーと同じように,大きなマーケットが間違いなく存在するでしょう。ここに,エレクトロニクス企業がすべきことがあると考えています。

── 精神的なバリア・フリーとは,具体的には,どのようなこと(モノ)を指すのですか。

 例えば,テレビのリモコン。これまでも,高齢者向けに作られたものはあります。ただし,それはボタンが大きいとか,ボタンの色がはっきり分かれているとか,ボタンが押しやすいとか,そのレベルの話です。いわゆる物理的なバリア・フリーを実現したものであって,あくまで「高齢者にボタンを押してもらう」という前提に立って作られているわけです。

『日経エレクトロニクス』2010年1月11日号より一部掲載

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