2012年度に10PFLOPS(1秒間に1京回の演算)の実現を目指す次世代スーパーコンピュータ・プロジェクト。ところが,政府の事業仕分けによって,一時は「事実上の凍結」とされた。この計画で当初から批判があった部分が,仕分けでも槍玉に上がった。では,性能,技術,およびコストの点で,この計画にどこまで価値があり,波及効果はどこまで期待できるのか。2005年の基本構想時から振り返って検証すると,開発した「成果」は,意外に面白いものであることが見えてきた。

目立った「説明側」の迫力不足
文部科学省と理研の次世代スパコン計画に対する事業仕分けでの主な発言者と,その論点を示した。「仕分け側」には計算機システムの専門家がおらず,「説明側」には企業や産業を代表する人がいなかった。

 「ちょうど海外出張に行っていたので,関係者でインターネット中継をかたずをのんで見ていた」(東京大学 情報理工学系研究科 教授の平木敬氏)。政府が2009年11月13日に実施した行政刷新会議ワーキング・グループによる「事業仕分け」で,文部科学省と理化学研究所(理研)が進めている,演算性能10ペタ(P)FLOPSの「次世代スーパーコンピュータ・プロジェクト」(次世代スパコン計画)が俎上に載ったときのことだ。

 事業仕分けの結論は,「かぎりなく見直しに近い縮減」。この結論が出た後に,「(2010年度予算計上の)凍結ということ」と,国会議員の田嶋要氏から追加説明があった。

 この顛末に,同計画を進める研究者はもちろん,高性能なコンピュータ・システムを研究開発している研究者や技術者の多くに衝撃が走った。システム開発を担う富士通は,「既にマイクロプロセサもできて,ラック規模のシステムもできた。今は量産に向かって動きだしており,もう止めるに止められない。一体どうなるのかと…」(同社 常務理事 次世代テクニカルコンピューティング開発本部長の井上愛一郎氏)。

 理研 理事長でノーベル化学賞受賞者の野依良治氏は「(研究開発の競争は)リレーをやっているようなもの。途中で止めたら大変だ」と仕分け結果を批判した。

 その後,全国でさまざまな研究者が計19回以上の記者会見を開いたり,緊急声明を発表したりして,次世代スパコン計画凍結や科学技術予算削減の方針に異議を唱えた。

科学,車から家庭にも浸透

 一般論としては,スーパーコンピュータ(スパコン)の研究開発が非常に重要なことに議論の余地はない。性能の高いスパコンをどれだけ利用できるかは,計算機やマイクロプロセサの開発技術はもちろん,最先端科学やエレクトロニクス技術,医療分野の競争力に直結するためだ。

『日経エレクトロニクス』2008年12月28日号より一部掲載

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