写真:上重泰秀

 最近,企業活動が何となくおかしくなってきたな,と感じるんです。「付加価値」という名の魔物に取り憑かれているんじゃないか,と。

 企業にとって付加価値というのは,もともと生産を通じて生み出す価値のこと。ところが,最近の付加価値という言葉の使い方は「簡単にもうける」というふうに聞こえてしまう。実際,付加価値という言葉を利用して,商品の価格を安易に上げているところがあるでしょ,そんなのを見ると,簡単にもうけているだけじゃないか,自分たちの努力や技術はどうしたんだよ,と言いたくなってしまう。「付加価値を追求する」あまり,大事な「本質価値」を見失ってはいないか,と。今のものづくりには,この部分ですごく違和感を覚えています。

 イタリアンレストランを展開しているサイゼリヤは,食を通して毎日の暮らしの豊かさを提案し,できるだけ多くのお客様を喜ばせたいと考えています。これが,私たちが求める本質価値。それには,毎日安心して食べていただけるように安くしなければいけない。料理の品質と価格のバランスを追求しながら,お客様には一番下限の価格で出す。当社の正垣泰彦会長をはじめ私たちは,そうでないと世の中のためにならないと考えています。
〔以下,日経ものづくり2010年1月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 荻原博之)

堀埜一成(ほりの・いっせい)
サイゼリヤ 代表取締役社長
1957年富山県生まれ。1981年3月京都大学大学院農学研究科修了。同年4月に味の素入社。制がん剤の探索やアミノ酸の製法改良,グルタミン酸ナトリウムの製造,医薬用アミノ酸の製造/改良などに従事。2000年4月サイゼリヤ入社。同年11月取締役就任。神奈川工場や福島工場を立ち上げる。2009年4月代表取締役社長に就任,現在に至る。