東京・目黒で開催された「日経ものづくり創刊5周年記念シンポジウム」。その舞台に,一人の女性が立っていた。会場に集まったスーツ姿の製造業関係者たちが注視する中,東京都青梅市にあるベスト青梅で一人屋台を担当する吉岡環は,組み立ての実演を始めた。言いようのないプレッシャーが彼女の背中にのしかかる。

2009年7月開催の「日経ものづくり創刊5周年記念シンポジウム」の壇上では,研修生たちがカイゼンした一人屋台を用いて組立作業の実演が披露された。写真:細谷陽二郎

 2009年7月某日,日経ものづくりの創刊5周年を記念したシンポジウムが,東京・目黒のとある会場で開催されていた。午後は二つの講演会が同時に進行。その一つで開かれたのが,工場に勤務する女性たちによる「カイゼン活動実演会」である。講師を務めるのは,PEC産業教育センター副所長の山崎昌彦。実演を担当するのは,同センター提供の女性現場スタッフ向け研修を受講する研修生たちだ。

 舞台の上では,一人屋台における組立作業のカイゼンが佳境に入っていた。研修生の代表2人が六角レンチを使い,作業台をその場で組み直して小型化。そうしてできた台の上に,作業者が手に取りやすい位置に部品を配置した板が載せられた。この板は前日,研修生たちがこしらえたものだった。

 カイゼン後の作業台によるタイム測定が始まった。作業を担当したのは,ドアの蝶番や錠前などを研究・開発・製造するベスト青梅で,一人屋台を担当する吉岡環である。

「スタート!」

 タイムキーパーの掛け声で測定が始まった。スーツ姿の聴衆がかたずをのんで見守る中,吉岡は作業台に食らい付いた。しばらく後,吉岡の手元の電気工具が突如,鈍い音を立てた。

「ガガッ,ガガガガッ」

 壇上で吉岡の作業を見守っていた研修生たちの顔に,緊張が走る。

〔以下,日経ものづくり2009年11月号に掲載〕