ソニーには,フレッシュな発想で真正直に,課題に取り組んだ若者がいる。それに応えた先輩社員たちがいる。豊富な技術資産もある。それらが組み合わされて画期的な商品が生まれた。

 撮影者やカメラが写真に及ぼす“害悪”を強力に抑制する初めてのカメラ・アクセサリー。それがソニーのカメラ・スタンド「Party-shot IPT-DS1」である。

 IPT-DS1にカメラ本体を設置すると,自動的に最大360度回転(パン),最大-21~+24度の俯角調整(チルト),光学ズームを実行してアングルを調える。カメラは,人の笑顔などを検出した時点でシャッターを切る。一連の作業に人は関与しない。

 それ故,撮影技能をほとんど持たないユーザーであってもスタンドにカメラを装着すれば,家族や恋人,仲間が生活の中で示す,自然で心引かれる表情を,写真に収められる。メンテナンスも,単3形電池2本で11時間作動するので楽だ。

 2009年9月の発売から間もないとあって,IPT-DS1がヒットするかは分からない。ただ「消費者や流通業者の反応は非常に良い」(ソニー)。 IPT-DS1と対応カメラのセット購入率は,初動段階で同社予想を超えた。流通業者も,日本の大手カメラ量販店を中心に,アクセサリーとしては異例の販売体制を採っているという。

 IPT-DS1の開発の出発点にあったのは,ただ一人の新入社員の熱意だけだった。実績もなければ,そもそもカメラ・アクセサリー部隊に属してもいない。そんな人物の熱意を生かす風土が,ソニーのカメラ部門にはあった。ちょうど量産適用を迎えていた幾つもの技術もあった。これら三つの集積が,カメラのユーザー体験に新風を吹き込んだ

『日経エレクトロニクス』2009年11月2日号より一部掲載

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