「揚げ物が上手にできます」「掃除が簡単ですよ!」。2009年7月下旬,東京ビッグサイトで開催された「エネルギーソリューション&蓄熱フェア'09」で,各電機メーカーはIH調理器の最新シリーズの売り込みに躍起になっていた。中でも激しく火花を散らしていたのが,国内市場シェアが業界トップのパナソニックと2位の日立アプライアンス。実は両社,シェア争いの陰で「設計の戦い」も展開していた。
IH(Induction Heating,電磁誘導加熱)調理器は,国内の市場が縮小傾向にある白物家電の中でも着実に市場を伸ばし続ける商品の一つ(図)。2008年の国内出荷台数は,前年比で約3万台増となる88万4000台を数えた。そんな市場で1位と2位の座にあるのが,2008年の市場シェア52.0%のパナソニックと,同18.1%の日立アプライアンス(以下,日立)である。実は,この2社には一つの共通点がある。「オールメタル対応IH調理器の開発に成功した」という点だ。
「オールメタル対応」とは,これまでのIH調理器では使用できなかった金属の鍋も使える機種のこと。具体的には,これまでステンレス鋼(一部,非磁性も含む)とそれ以外の鉄(Fe)系に限られていた使用可能な鍋の材質が,アルミニウム合金と銅(Cu)にまで広がった。つまり,消費者がガス調理器からIH調理器に買い替えても,ガスで使用していた愛用の鍋を継続して使えるということだ。オールメタル対応技術の開発が,両社のシェア拡大に少なからず貢献していることは,まず間違いないだろう。
その一方で,両社はなぜか,それぞれオールメタル対応機種の「異なる長所」を消費者にアピールしている。パナソニックは,使用できる鍋の種類が日立に比べて幅広い点。対する日立は,鍋を載せるトッププレートの温度がパナソニックに比べて上昇しない点を挙げているのだ。
こうした姿勢は,両社の同調理器の最新モデルにおいても変わらない。なぜなら,両社のオールメタル対応に関する基本的な設計思想は大きく異なっており,それがそうした姿勢に反映されているからだ。以下に,最新機種まで綿々と受け継がれてきた,両社の設計アプローチの違いを紹介しよう。
〔以下,日経ものづくり2009年10月号に掲載〕