1848年にフランスで翻訳・出版された日本の書物がある。江戸時代に来日したシーボルトが,オランダに持ち帰った大量の収集品の中に含まれていた『養蚕秘録』(1803年)である。但馬(現在の兵庫県北部)で養蚕業を営んでいた上垣守国(1753~1808年)は,地場の養蚕技術の改良・振興に努め,私費を投じて各地を訪ねて優れた養蚕技術を学び,その集大成として世の役に立てようと同書を著した。

 当時の科学や技術の先進地であるフランスで,優れた養蚕書として認められた養蚕秘録。その内容は,蚕の一生とその生態,そして育て方や管理,製糸に至るまでをカバーする。

〔以下,日経ものづくり2009年8月号に掲載〕

鈴木一義(すずき・かずよし)
国立科学博物館 理工学研究部 科学技術史グループ グループ長
1957年新潟県生まれ。東京都立大学大学院工学研究科で材料力学専攻修士課程を修了。日本NCR技術開発部勤務を経て,1987年から国立科学博物館理工学研究部に所属。専門は,江戸時代から現代までの日本の科学/技術の発展史。