高齢者でも十分な水分補給を実現できるようにと考案した飲料補助具(飲み口)─。飲もうとしたときには中の飲料が流れ出るが,それ以外の場合にはコップを逆さにしてもこぼれない。その中核技術となるスリット構造の特許も取得し,開発資金のメドも立った。あとは量産に向けて設計の詳細を詰めていくだけ…。しかし,アイ・シー・アイデザイン研究所(ICIデザイン研究所,本社大阪府守口市)の飯田吉秋は,製品化を決心するための強い根拠を求めていた。

飯田吉秋 アイ・シー・アイデザイン研究所代表取締役
写真:中西真誠

 2008年9月に東京で開催された「第35回 国際福祉機器展」。そのICIデザイン研究所のブースには,黒山の人だかりができていた。来場者は,初めて見る飲料補助具(飲み口)を手に取って,飲料の通り道となるスリット構造が開閉する様子を確認したり,実際にコップを逆さにしてこぼれないことを確かめたりしながら興味深げに眺めていた。

 同社が展示会への出展を決めた目的を,代表取締役の飯田吉秋はこう語る。「新製品を宣伝することが目的ではなかったんです。それ以前の問題として,果たして市場で,この製品が本当に受け入れてもらえるのかどうか…。それを確認したかった」。

 製品開発のきっかけとなった,父親の評価はいまだに芳しくない。しかし,ニーズの存在とそれに対する基本的な実現方法には自信がある。広く潜在ユーザーから生の声を聞くことで,製品化に向けての自信をさらに確かなものへと高めたかったのだ。その上で,製品化までに解決すべき問題点を明らかにし,解決方法のヒントを得たいと考えていた。

〔以下,日経ものづくり2009年8月号に掲載〕