「勝つ設計」は,日本のVEの第一人者である佐藤嘉彦氏のコラム。ただ安さばかりを求めて技術を流出し,競争力や創造力を失った日本。管理技術がこれまでの成長を支えてきたという教訓を忘れた製造業。こうした現状を打破し,再び栄光をつかむための製品開発の在り方を考える。

 前回は,世相を反映して緊急割り込みを試みた。いささか本コラムのリズムを壊してしまったかもしれないと危惧しているが,日本企業が再び強さを取り戻すためにはどうしても避けられないテーマだった。ご理解いただければ幸いだ。

 さて,寄り道はここまでとし,今回から再び,本流に戻して話を展開していく。復帰第一弾は,原価企画の入り口である,顧客ニーズの把握の仕方と商品企画のまとめ方について。

不満を顕在化する生活研究

 本コラムの第1回で,のどあめを包む銀紙の不愉快さと,それをのどあめメーカーに伝えないために不満が顕在化しないことについて触れた(脚注だったので,ご記憶にない方もおられるのでは…)。

 実は,私は本誌の前身である『日経メカニカル』でも2年にわたってコラム「続・元気が出るVE」を執筆してきたが,そこでも同じような不満の非顕在化(潜在化)を指摘してきた。当時例に挙げたのは,手や顔を洗うとびしょびしょにぬれてしまうホテルなどの洗面台や,街角に山積みにされて特に夏場には悪臭や異臭などの原因にもなるゴミ袋,街の美観を損なうだけではなく道路交通の妨げにもなる電柱などだった(図)。

〔以下,日経ものづくり2009年8月号に掲載〕

図●びしょびしょにぬれてしまう洗面台(a)と,そうでない洗面台(b)
洗面器のフチをちょっと内側に出っ張らせる「水返し」を付けるだけで水の飛散を防げる。洗面台がびしょびしょになるという不満から,商品の価値を高めることができる。

佐藤嘉彦(さとう・よしひこ)
VPM技術研究所 所長
1944年生まれ。1963年に,いすゞ自動車入社。原価企画・管理担当部長や原価技術推進部長などを歴任し,同社の原価改善を推し進める。その間に,いすゞ(佐藤)式テアダウン法を確立し,日本のテアダウンの礎を築く。1988年に米国VE協会(SAVE)より日本の自動車業界で最初のCVS(Certified Value Specialist)に認定,1995年には日本人初のSAVE Fellowになるなど,日本におけるVE,テアダウンの第一人者。1999年に同社を退職し,VPM技術研究所所長に就任。コンサルタントとして今も,ものづくりの現場を回り続ける。