写真:早川俊昭

 メーカーというのは,一種のエンターテイナーじゃなきゃダメだと僕は思っているんです。考えてみれば,エンターテインメントって不思議なもので,映画や演劇,コンサートに行くお客さんは,残らないものにお金を払う。特に役に立つわけでもなく,見たら終わりなのに,平気でチケットが即日完売になるじゃないですか。

 プラモデルって,ものづくり企業の製品の中でも,全く役に立たないものですよね。それどころか,子どものときは「そんなもの作ってないで勉強しなさい」と叱られ,大人になっても嫁さんに「そんなもの買ってきてどうするの」と怒られ,いつまでも褒められることのない存在です。でも,人って,お酒を飲んだりスポーツをやったり,そういう楽しみや癒やしがないと生きていけないでしょ。

 模型って要するに癒やしの産業で,お客さんに立体物を通して飛行機や戦車の情報を伝え,感動を引き出す。だからエンターテイナーでなければならないんです。お客さんはその情報に対価を払っているのであって,単なるプラスチックの成形品に対してお金を払っているわけではないのです。

〔以下,日経ものづくり2009年8月号に掲載〕(聞き手は本誌編集長 原田 衛)

小野文明(すずき・くにひろ)
ファインモールド 代表取締役
1958年愛知県生まれ。豊橋工業高校建築科卒業。家業の建具屋で見習いに就く。その後,建築設計や金型メーカーなどでサラリーマン生活を経験後,1987年にファインモールドの前身である「無限モデル」を設立。翌年,現社名に変更し,戦車や戦闘機,軍艦など,マニア心が隅々まで行き渡るプラモデルを総勢6人の陣容で次々に製品化。「紅の豚」や「スター・ウォーズ」といった映画に登場する戦闘機なども手掛け,そのこだわりには定評がある。中小企業庁の2007年版「元気なモノ作り中小企業300社」に選ばれたほか,同庁の「中小企業白書2009年版」でも事例紹介された。旧日本軍車両の研究家としても知られる。写真左は,創業当時から鈴木氏と苦楽を共にしている,同社技術主任の谷本浩一氏。