日本のカー・ナビゲーション・システム(カーナビ)が大きく変わろうとしている。通信技術の進化で、カーナビの機能のかなりの部分を携帯電話機で代替できるようになるからだ。簡易型カーナビのPNDも通信技術で高性能化を図る。「高価だが高性能」という日本独特の進化を遂げてきたカーナビも通信技術を取り込むだけでなく、「車両連携」の強化に活路を見いだそうとしている。

 今、日本のカーナビ市場は大きな変化の波に洗われている。その一つが、PND(Personal Navigation Device、簡易型カーナビ)の急速な浸透であり、そしてもう一つが通信技術の高速化である。
 日本にいると気づかないが、世界のカーナビでは、すでにPNDが主流であり、そのPND市場は米Garmin社とオランダTomTom社の2社が世界シェアの6割以上を押さえる寡占市場となっている。やや古いデータになるが、矢野経済研究所が2008年10月に発表した調査結果によると、2007年の世界のカーナビ/PNDの市場規模は3973万台で、このうち約8割の3080万台をPNDが占めた。
 一方日本のカーナビ市場の規模は、電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によれば2008年で448万9000台である。同じ年の世界のカーナビ/PND市場が5000万台近くと推定されることから考えれば、1/10以下の規模に過ぎない。これまで日本のカーナビ市場では、国内カーナビメーカー各社の高付加価値路線もあり、こうしたPND化の波はそれほど及んでいなかった。しかし、国内でも2007年からPND市場が急速に立ち上がり始め、2009年には、市販市場においてPNDがカーナビを超えると予測されている(図)。
 それでは今後PNDがこの世の春を謳歌するのかといえば、事情はそう単純ではない。次の変化の波が、すでに寄せてきているからだ。それが通信カーナビの台頭である。
 通信技術をカーナビに活用しようとする動きは新しいものではない。すでにトヨタ自動車は1998年に携帯電話を使った自動車向け情報サービス「MONET」をスタートさせている。しかし、あとで説明するように、現行の通信サービスがユーザーに広く受け入れられているとは言いがたい。これに対し、最近登場しているカーナビへの通信技術の応用は、渋滞情報をリアルタイムで伝える、といったような従来のサービスの枠を大きく超えている。
 富士キメラ総研は2009年5月、ITS関連の市場予測調査の報告書「2009年版 ITS関連市場の現状と将来展望」を発表した。この報告書は、カーナビとPNDの2020年の市場規模が2520億円と、2008年の2772億円から縮小すると予測している。その理由の一つとして同報告では、PNDが今後、徐々にスマートフォン(携帯情報端末としての機能を備えた携帯電話機)に市場を奪われる可能性を指摘している。つまり、カーナビ市場をPNDが侵食する一方で、今後PND市場をスマートフォン、つまり携帯電話が侵食するという構図が浮かび上がる。

以下,『日経Automotive Technology』2009年9月号に掲載
図 国内市販カーナビ/PNDの市場規模予測
日本の市販市場でも、2009年はPNDが半数を超えそう(2008年までは電子情報技術産業協会の統計、2009年はパナソニックの予測を基に本誌が作製)。

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