機器を開発する際,数多くの設計パラメータが相互に影響し合うと,物理現象を予測し切れず,結果として設計不具合が生じることがある。問題の解決に向けて,シミュレーションと統計的分析を組み合わせることによって不具合発生のメカニズムを理解し,それを設計に生かそうというのが「CAP」と呼ぶ設計支援手法である。今回,表面実装型の部品であるBGAパッケージを例として取り上げ,CAPを導入するメリットや実施の開発フローなどを解説する。筆者はCAP手法の開発者である。(本誌)

于 強,近藤 悟史,佐次 敬太
横浜国立大学 大学院工学研究院

CAP技術の流れ

 ICや電子部品の小型化や高機能化に伴い,限られたスペースに多くの部品を詰め込むようになった。製品の構造は複雑になり,以前は無視できた水準の熱や強度,電磁雑音などが問題となり始めている。その一方で,開発期間の短縮により,問題解決に割ける時間は短くなっている。

 不具合の原因となる物理現象は複雑であることが多く,専門技術者ですら,現象のすべてを理解するのは難しい場合がある。特に,部品の内部構造が複雑化すると,各構成部材の物性や形状といった多数の設計因子が相互に影響を及ぼし合う「交互作用」が顕著になり,一層問題が複雑になる。

 例えば, BGA(ball grid array)パッケージのプリント基板への実装では,小型化が進むにつれてパッケージとプリント基板の熱膨張差による疲労破壊が深刻な問題になっている。短い開発期間で高い設計品質を確保するには,問題の発生メカニズムをあらかじめ把握して,最初から問題が起こらないように設計する必要がある。これを実現するための設計支援手法の一つが「CAP(computer aided principle)」技術である。

なぜそうなるのか

 CAP技術を解説する前に,現在の機器開発の問題点を整理しておこう。大きく二つの問題がある。

(A)経験とノウハウ,教育の不足

 これまで技術者は,既知の物理現象に関する知見を踏まえて設計を行い,経験やノウハウを積み上げながら設計指針(設計ルール)を構築してきた。ただし,それらの設計指針は簡単なものが多く,多数の設計因子が複雑に絡み合って挙動の予測が困難な場合に関しては,そのノウハウは十分ではない。このため,新たな問題が発生すると,一から問題発生のメカニズムを探る必要がある。ただし,多くの技術者はそのための教育を受けていないのが実情である。

(B)現状の分析・解析手法の限界

 現状の解析手法にも限界がある。例えば,設計上の課題に関する要因分析の手法として,タグチメソッドのような直交表に基づく統計的手法がよく用いられる。ただし,タグチメソッドは,要因同士に交互作用が存在しないか,あるいは交互作用が既知であることが前提となっており,未知の交互作用までは把握できない。

 また,複雑な現象を予測するため,コンピュータによる数値シミュレーションも広く利用されている。応答曲面法に基づいて各設計因子の影響度を定量的に評価する方法もある。だが,多くの設計因子が複雑に絡み合う場合,シミュレーションや応答曲面法で結果は予測できても,原因と結果の因果関係のメカニズム,つまりなぜそうなるのかまでは分からないことが多い。そのため,似たような設計条件でも,条件が少しでも異なるとそのたびに数多くのシミュレーションを実行しなければならず,多大な時間がかかる。

『日経エレクトロニクス』2009年7月13日号より一部掲載

7月13日号を1部買う