出典:日経エレクトロニクス,1986年7月28日号,pp.179-184(記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

創刊400号目に当たる1986年7月28日号の特集は「LSI設計」。半導体メーカーがこぞってASIC(application specific IC)事業に力を入れ始めたことを受けた記事だった。CAD技術の進歩により,機器メーカーが自身の要求に適したLSIの設計を担うようになり,半導体メーカーはファウンドリーに近づくと見た。この特集が示唆した設計と製造の分離の波に,結果として日本の半導体メーカーは乗り遅れてしまった。(2009/04/10)

創刊400号特集「LSI設計」の目次
[画像のクリックで拡大表示]

 LSIはいまや電子産業の根幹である。ほとんどの先端産業の基礎でもある。パソコンもワープロも LSIがなければ存在さえしなかったろう。 OA, FA,ロボット,スーパーコンピュータなど,皆そうだ。機械翻訳や人工知能もLSIの進歩が止まればユメのまたユメとなる。情報通信やソフトウエア産業なども, LSIの進歩によるハードウエア価格の低下があって初めて成り立つ。

 その LSIが大きな転換期を迎えている。ひいては電子産業全体が転換期にある1)。こういう認識を背景として「LSI設計」を創刊 400号記念の特集テーマに選んだ。

 転換の及ぶところは遠く広い。半導体メーカと LSIユーザの関係は言うに及ばず,部品とシステム,設計と製造の関係を変える。さらに一般には,生産者と消費者の関係の変化を通じて近代工業社会の骨格にまで影響を与える1),2)。LSI設計はこの変化の中心に位置する。

ASICが転換を象徴

 「時代は ASICへ。ユーザーフレンドリーに」(日立製作所)
 「汎用ICからセミカスタムLSIへ」(東芝)
 「ASICカンパニーをめざす」(富士通)
 「とっくにASICはBASIC」(三菱電機)

 1986年5月のマイクロコンピュータショウでは, ASIC,カスタムICがポスターにあふれていた。半導体メーカでASIC強化を口にしないところはない。LSI産業の転換を象徴化して言えば,「汎用から専用へ,メモリから ASICへ」1)となろう。

 LSI設計が電子産業全体のなかで持つ意味や比重は,格段に大きくなった。かつては LSI設計は特定の専門家だけの仕事だった。いまやすべての電子技術者が潜在的には LSI設計者である。ASICやカスタム LSIでは,LSIを設計するのはユーザ,すなわち機器(システム)設計者になる。ということは,LSI設計は電子技術者の範囲をさらに遠く超えて広がるだろう。 LSIのユーザは,ほとんど全産業にわたるからである。

矛盾を超えて

 すでに本誌上でも何度か触れたように,LSI技術には本質的な矛盾がある。大量生産向きの製造技術と多品種少量生産を要求する製品設計の間の矛盾である。製造技術の進歩による集積規模の拡大は,一般的には矛盾を激しくする。