【特集】ハイブリッド車の価格破壊始まる インサイトのインパクト


Part 1:激安ハイブリッドの必然性

ホンダが2月に発売した「インサイト」の滑り出しが好調だ。ハイブリッド車は高価なため、これまで国内の販売シェアは3 %に過ぎなかった。勝因は「200万円以下のハイブリッド専用車種」という条件設定。市場調査で、既に答えの出ていたものである。インサイトの成功がきっかけとなって価格競争が始まった。

 ホンダは2009年2月5日に発売した新型ハイブリッド車「インサイト」が、3月9日までの約1カ月で1万8000台を受注したと発表した(図)。販売台数は2月中で4906台。登録車でトヨタ自動車の「プリウス」を抜いて10位に食い込んだ。価格を189万~221万円に抑えた戦略が見事に当たった。
 インサイトの好調に水を差すかのように、トヨタに関する新聞報道が続いた。「新型プリウス205万円」(2009年3月12日付朝日新聞)「200万円切る新型」(同3月13日付日本経済新聞)「プリウスは189万円に」(同3月17日付日経新聞)。

「インサイト」を生産する鈴鹿製作所
「インサイト」を生産する鈴鹿製作所
混流ラインだが、現在は多くがインサイト。


Part 2:低コスト実現への要素技術

インサイトには「ハイブリッド車らしさ」と「らしくなさ」の二面性が要求された。一般に広げるためにはハイブリッド車らしくないクルマでありたい。ハイブリッドらしくない安さを実現するために、徹底的に控えめなハイブリッド車とした。しかし「ハイブリッド車に乗っている」ことを示すアイコンも欲しい。「燃費オタク」に対する配慮も、忘れてはいない。

 インサイトの“勝因”は「ハイブリッド車らしくない」「ハイブリッド車らしい」の二つを両立させたことだろう。開発を指揮したホンダ四輪事業本部開発企画室RADの阿野則生氏は、インサイトを開発する過程で「だから」を禁じた(p.7の「Key Person」参照)。ハイブリッド車だから値段が張るのは仕方がない、ハイブリッド車だから走りが悪いのは仕方がない・・・。こうした言い訳は一切禁止だった。「ハイブリッド車らしくないハイブリッド車」が開発目標だった。

エンジン端、普通ならフライホイールがある場所にモータがある
エンジン端、普通ならフライホイールがある場所にモータがある
モータ出力は10kWと控えめ。


Part 3:海外勢、動く

ハイブリッド車に関しては日本のトヨタ、ホンダ2社が先行し、日本を含む各国のメーカーがそれを追う展開になっている。「Chevrolet Volt」の発売が迫る米GM社は、第3の勢力として有望だ。ドイツ勢でも1モータで商品化が始まる。ホンダと違い、モータの前にクラッチを置く方式が主流になりそうだ。

 海外勢で注目されるのは米GM社が2010年の発売を目指す「Chevrolet Volt」(図)だろう。GM傘下のドイツOpel社が2011年の商品化を予定している「Ampera」も前後のデザインを変えただけの兄弟車で、「ボルテック(Voltec)」と呼ばれる動力装置を共用する(p.104に関連記事)。Caddillacブランドのコンセプトカー「CONVERJ」も、2ドアのクーペだが中身は同じだ。「低燃費車を熱心に開発し ている」ことをアピールし、公的資金を引き出そうとするGMにとって、社運を握る車種でもある。

「Chevrolet Volt」のエンジン周り
「Chevrolet Volt」のエンジン周り
米国デトロイトのHamtramck工場で、2010年後半から生産を始める。