【特集】派遣の現場 頼りすぎたメーカーの現実

設計・開発や生産の現場に,閉へいそく塞感が漂っている。2度のバブル崩壊と今回の素材高・金融不安で,メーカーは正社員を減らし,代わりにコストメリットの高い派遣社員を多く登用した。あたかもオセロの石をひっくり返すかのごとく。働く人たちは疲弊し,日本は「人材消耗型社会」になりつつある。しかし,現状を打破する手立ては必ずどこかにあるはずだ。この閉塞感を打ち破るために,社会全体で立ち上がる時が来た。(池松由香,荻原博之)


【特集】派遣の現場 頼りすぎたメーカーの現実

 技術者になりたいと思い始めたのは中学生の時。大学で機械工学を学んで,卒業してからすぐに,さまざまな分野のメーカーから設計業務を請け負ったり,メーカーの設計部に社員を派遣したりする会社に就職しました。当時はまだ,どんな分野の設計をしたいのか決められなかったからです。(以下,「日経ものづくり」2008年11月号に掲載)

【特集】派遣の現場 頼りすぎたメーカーの現実

 大学の専攻は理系だったんですが,卒業後に専攻とは全く関係のない分野の会社に就職しました。でも,入社してみたら「やっぱり違った!」って気付いて。それで理系の仕事を専門に扱う派遣会社に登録をしたんです。そうしたら毎日,派遣会社からメールや電話が来るようになって,あっという間に仕事が決まりました。(以下,「日経ものづくり」2008年11月号に掲載)

【特集】派遣の現場 頼りすぎたメーカーの現実

 ここ数年,当社では生産システムの開発業務に携わる派遣社員が急増しています。ご多分に漏れず,ウチでも中国をはじめとする新興国に現地工場を次々と新設する計画が進んでいて,そこに設置する生産システムの需要が急拡大したんです。(以下,「日経ものづくり」2008年11月号に掲載)


【特集】派遣の現場 頼りすぎたメーカーの現実

 「告白」で採り上げた4人の派遣社員/正社員の証言から浮かび上がってくるのは,派遣社員の活躍の場が広がる中で無力化する正社員の実像である。
 最も顕著なのは,自動車メーカーの設計部門に勤務する派遣社員,秋山実氏(仮名,30代)のケースだ。彼は臆することなく「設計の実力で言えば,正社員よりも(派遣社員である)自分の方が高い」と言い切っている。無論,これだけをもって正社員の技術力が低下していると決め付けることはできない(以下,「日経ものづくり」2008年11月号に掲載)


【特集】派遣の現場 頼りすぎたメーカーの現実

 「実像」で既述した通り,多くのメーカーはこれまで「場当たり的」に労働者派遣を活用してきたきらいがある。例えば,△△部門のA部では手数が多すぎ,B部では人が足らなかったとする。通常なら,AからBに人を配属し直せば済むが,本社の人事部門がこの現状を理解していなければ不可能だ。そこでB部は,派遣社員などの外部人材に労働力を頼ることになる。全社的にはコスト増になるとしても,だ。つまり,人材配置を考える上では,個別の職場よりも少し上の視点から物事を見る必要がある。(以下,「日経ものづくり」2008年11月号に掲載)

図●外部人材も含めて労働生産性を評価する
図●外部人材も含めて労働生産性を評価する
外部人材を活用し始めてからの「人件費1単位当たり売上高」をプロットし,労働生産性の変化を見る。同売上高が上昇傾向にあれば,外部人材の登用がうまくいっている。下がり始めたら問題あり。要因を探り,内部/外部人材の比率を見直す。佐藤博樹著『パート・契約・派遣・請負の人材活用』(日本経済新聞社)を基に本誌が作成。


【特集】派遣の現場 頼りすぎたメーカーの現実

 人材にまつわる問題は,国の経済構造や労働慣習,法規制などが複雑に絡み合って生まれるものだ。メーカーだけにその責任を押し付けていても,抜本的な解決にはつながらない。そこでこの「提言」では,メーカーからさらにその上の社会全体にまで視点を上げ,人材の現場で起きている問題と解 決策について考えていきたい。
 小泉内閣が施行に踏み切った2004年の労働者派遣法改正は,新たな雇用を生み出し,国民からは一定の評価を受けた。労働者派遣の仕組みが,職を失った人々の受け皿になったからだ。(以下,「日経ものづくり」2008年11月号に掲載)

図●労働者の正規/非正規雇用のバランスの崩壊
図●労働者の正規/非正規雇用のバランスの崩壊
派遣社員が比較的低い費用で質の高い労働力を提供するようになり,正社員側も疲弊している。