これまで逐次比較型A-D変換器を使っていた機器が最近,性能向上が著しいΔΣ型に置き換わりつつある。ところが,機器設計者からは「動作原理が分からないのでΔΣ型の採用をためらっている」という声がある。本連載では,そんな設計者に向けてA-D変換器の仕組みを体系的に紹介する。(清水 直茂=本誌)

中村 黄三
日本テキサス・インスツルメンツ アプリケーション技術部 エンジニアリング・エキスパート

 低・中速のアナログ信号をデジタル信号に変換するA-D変換器では,主に2種類の回路方式が使われる。逐次比較型(SAR:successive approximation register)とΔΣ(デルタ・シグマ)型である。高分解能を特徴とするΔΣ型といえば,これまではオーディオ向けが主な用途であり,産業向けでは逐次比較型が主流であった。産業向けのΔΣ型の変換速度は1kサンプル/秒程度と遅く,利用できる分野が限られていたためである。