【特集】電子化が変える競争力の源泉


Part.1:ソフトが作るクルマの魅力

電子装備がクルマの競争力を左右する比率が高まってきた。自動車メーカーは次々と新たな機能を追加する。将来のクルマの姿を模索する専任部隊を組織する部品メーカーも出てきた。負荷が増える開発現場は、横断的な組織改正で効率化への対応を急ぐ。一方、欧米では人材の豊富なインドをソフトウエア開発に活用し始めた。

 トヨタ自動車が2008年2月に全面改良した新型「クラウン」(図)。先代のプラットフォームを流用しながらも、電子制御の性能を高めたことで、走りを進化させたのが売りものだ。全車に標準装備した統合制御システム「VDIM」が、ステアリングとブレーキ、エンジンを協調制御することでコーナ ーや荒れた道路でも安定して走行できる。新型クラウンに試乗した先代のクラウンユーザーからは「従来と同じハードウエアで、ここまで走りが変わるのか」という感想が聞かれたという。
 新型クラウンが電子装備を重視する姿勢はカタログ上にも現れている。同社として初めて、カタログに「電子プラットフォーム(PF)」という言葉を載せた。「エンジンやサスペンション形式が従来と同じでは、ユーザーに新しくなったことを訴えにくい。電子PFの性能を強化したことで、多くの電子制御機能を実現したことを伝えたかった」(トヨタ自動車商品開発本部主幹の岸田晋二氏)。

トヨタ自動車「クラウン」
トヨタ自動車「クラウン」
2008年2月の全面改良で、電子制御機能を全面に押し出した。


Part.2:新型車に見る安全・快適装備

トヨタ自動車の「クラウン」は、電子プラットフォームの強化でハードウエアの性能を引き出す。日産自動車の「フーガ」は、カーナビとブレーキを連携させる新機能を備えた。電子制御機能の増加に対して、部品メーカーはECUの開発体制を見直す動きがある。デンソーは、ソフトウエアを作る部隊と使う部隊に分けて開発を効率化する。ソフトウエアの機能や量に応じて、開発作業の分担や管理など、力を入れる点は異なる。

 クルマの競争力がハードウエアからソフトウエアに比重を移しつつある流れは、クルマのプラットフォームの位置付けを見ても明らかだ(図)。
 これまでプラットフォームと言えば、パワートレーンやサスペンション形式、フロア周りの構造など車両の機構的な基盤を指していた。しかし、電子装備が急速に増加している現在、電子システムの基盤となる「電子プラットフォーム(PF)」がクルマの性能を左右するようになってきた。

クルマの性能を決める新しいプラットフォーム
クルマの性能を決める新しいプラットフォーム
電子制御機能の増加で、電子プラットフォームの位置付けが高まっている。


Part.3:ブロードバンドが描く未来

近い将来、クルマの車内ネットワークは車外のインフラにつながりそうだ。高速大容量のブロードバンド通信がクルマでも可能になる。現状では情報系システムで地図を更新するのに通信技術を活用する程度だが、ソフトウエアの更新の範囲がクルマの制御系まで広がると、クルマの価値や安全性が高まる。クルマの中での時間の過ごし方にも自由度が増す。

 これまでクルマの内部で進化していたネットワークがクルマの外へと広がる兆しを見せている。その背景にあるのは車載ソフトウエアの急速な複雑化と大規模化。そして次世代のワイヤレスネットワーク「WiMAX」に代表される車外との通信ネットワークが高速大容量のブロードバンド化する動きだ。
 これまでもカー・ナビゲーション・システムに代表されるクルマの情報系システムを外部のネットワークに接続して地図の更新サービスなどを実現する例はあった。将来はこれが一歩進み、クルマの基本性能である制御系のシステムに接続範囲が広がりそうだ。

日産自動車のカーナビの地図更新機能
日産自動車のカーナビの地図更新機能
2008年5月に発売した純正カーナビで対応を開始した。


Part.4:オフショア開発最前線

IT大国として急成長してきたインド。そこで培われたソフトウエア開発能力が自動車分野でも発揮され始めた。すでに開発するソフトの技術水準は欧米と変わらない。優秀なエンジニアを大量に確保できるのも利点だ。言葉や商習慣の違いを乗り越えて、日本もインドとの「協働」を考える時期に来た。

 Part1で見たように、クルマを制御するためのソフトウエアの巨大化・複雑化がこのまま進めば、開発が追いつかなくなるのではないかという危機感が、自動車業界では強まっている。トヨタ自動車BR制御ソフトウエア開発室室長の林和彦氏は2008年4月に開催された「第1回開発・技術総合大会」(主 催:日本能率協会)の講演で「2015年には2万人のソフト開発エンジニアが必要になるが、現実には1万2000人しか確保できないだろう」と危機感をあらわにした。同じ悩みは欧米の自動車業界にもある。しかし彼らは、ソフト開発エンジニアを確保するために、日本とは違う手を打ち始めた。それがIT大国であるインドの活用だ。

インドのIT関連製品・サービスの市場規模
インドのIT関連製品・サービスの市場規模
年20%以上の成長率で伸びている。特に海外向けの伸びが著しい(インド全国ソフトウエア・サービス業協会のデータより本誌が作成)。ちなみに、日本の情報サービス産業の売上高は、経済産業省の平成18年特定サービス産業実態調査によると16兆7293億円となっている。