日経ものづくり 直言

電線を隠すことの意味を考え
物の恩に目覚めよ

森 政弘●東京工業大学名誉教授

 以下,実務から一歩退き,物への 感謝について再考してみよう。
 筆者の先輩に,池邊陽という建築家 がおられ,その思慮の深さは凡慮を絶 し,凡人には風変わりと見えた。
 例えば,池邊先生はトイレにドアを 付けることを嫌っておられた。もちろ ん仕切りを巧みに使って,用を足すの が丸見えになるようなことはなかった が。また,新築住宅でも,電線を壁の 中には入れず,見える場所を通るよう にもされた。しかし不思議と,むき出し の電線が部屋と調和して,ハイテクムー ドを醸し出したものだった。
 当時の私には,なぜ先生がそのよう な設計をされるのか謎だった。そして 先生は,弟子や後輩に,自力で考える ように仕向けるという愛情から,安易に は答えを示されないまま,惜しくも1979 年にがんで他界されてしまった。(以下,「日経ものづくり」2007年10月号に掲載

日経ものづくり 直言
もり・まさひろ
1927年生まれ。1950年に名古 屋大学工学部電気学科を卒 業後,東京大学助教授,東京 工業大学教授を歴任。専門は ロボット工学。ロボットコンテ ストの生みの親としても有名。 『ロボコン博士のもの作り遊 論』など著書多数。

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