DRAM並みの高速性を備え,書き換え回数が事実上無制限,しかも電源を切っても情報が消えない─。機器設計者の常識を塗り替える「不揮発性の主記憶」に道を開く技術を日立製作所と東北大学が共同で開発した。磁気抵抗効果を利用した不揮発性メモリMRAMに,スピン注入磁化反転と呼ぶ新たな動作原理を持ち込んだ。これまでに実用化されているMRAMと異なり,回路の微細化に対応しやすいため,国内外のメモリ・メーカーの間で開発競争が激化している。今回,日立製作所らは業界に先駆けて,2Mビットのメモリ・アレイの試作に成功した。開発した技術の詳細や今後の技術進化の方向性を,開発者自らに詳しく解説してもらった。

河原 尊之
高橋 宏昌
松岡 秀行
日立製作所
池田 正二
大野 英男
東北大学

 スピン注入磁化反転と呼ぶ新たな動作方式(以下,スピン注入方式)に基づく不揮発性RAMを開発した。従来の磁気メモリ(MRAM)に比べて,回路の微細化に対応しやすいことが特徴である。開発したメモリを,我々は「SPRAM(spin-transfer torque RAM)」と呼んでいる。 今回,2Mビットのメモリ・アレイを試作し,基本的な動作を確認した。国際学会などで発表されたスピン注入方式の不揮発性RAMとしては,これまでで最大容量である。従来は4Kビット程度が最大であり,それに比べて一気に3ケタ近く大容量化した。