日経ものづくり 特集

3次元データを活用すれば,設計・生産プロセスが劇的に改善される…。そう期待して3次元CADの導入に踏み切ったユーザーは多いはずだ。形状を正確に表現できる3次元データはコミュニケーションの円滑化,CAMやCAEへの流用―といった効果が期待できるからだ。
しかし同時に,3次元データを使い始めたからこそ直面する課題もある。「3次元データだけでは設計意図が正確に伝わらない」「3次元データの作成に時間が掛かってしまい,設計を考える時間が減ってしまった」「3次元データをいろいろと使いまわしたいが,受け手側で対応できない」―。これらの課題を解決する取り組みを明らかにする。 (中山 力)




課題


使い始めてから
三つの壁に直面する

 1990年代中ごろから2000年にかけて,多くのメーカーで3次元CADの導入が活発になった。それから約10年―。3次元データを活用していること自体は珍しくなくなったものの,十分に使いこなしているというメーカーはいまだ少ない。その背景には,一筋縄ではいかない3次元データ活用の難しさと奥深さがある。

あいまいな期待の根拠
 「同業他社の成功を見てとか,取引先からの要望だとか,いわゆる時代の流れから先行投資的に3次元CADを導入したユーザーも多い。もちろん効果は漠然とは期待しているが,どう3次元データを活用すればいいのか,その効果を得るために3次元データの活用がなぜ必要なのかを真剣には考えてはいなかった」。こう語るのは,自分自身も長く製造業の開発部門に属し,現在は3次元によるものづくりのコンサルタントを務めるツシマ(本社岡山県倉敷市)の津島茂氏だ。
 業務プロセスの革新では常に,品質向上とコスト削減,開発期間短縮―といういわゆるQCDの改善が目的となる。3次元データの活用も,この目的達成に有効であるはずだ。しかし,3次元データ活用がQCD向上に結び付くだろうと予想はできても,そこに至る具体的な道筋を見つけるのは容易ではない(図)。


図●3次元データ活用と期待する効果
開発期間の短縮やコストの削減,品質の向上といった効果を得られることを期待し,3次元データの活用を始めるユーザーは多い。しかし,3次元データをどのように活用すればよいのか,どう活用すればどんな効果が得られるのかについて明確なビジョンを持っているユーザーは少ない。




設計意図


後工程へ伝えるために
あえて2次元図面と共存

 どんなに優れた形状を3次元データとして作成しても,その通りの製品が完成するかどうかは別の話。部品を加工し,組み立て,検査する―というプロセスは,形状情報だけでは実現できないからだ。

3次元だけでものは造れない
 設計意図を確実に伝えるためには,大きく二つの条件を満たす必要があるといえる。それは,「授受する媒体に,設計情報をすべて表現できること」と「受け手側が,その媒体から容易に情報を得られること」だ(図)。
 従来,設計情報を授受する媒体として使われてきた2次元図面は,この二つの条件をかなりよく満たしている。では,3次元データを活用するようになった場合,どうなるのか。前述の条件に照らし合わせて考えてみる。
 設計情報としては形状情報だけでなく,寸法や公差,注記などの特性情報も必要となる。形状情報に関しては,2次元図面よりも3次元データの方が表現能力が高い。しかし特性情報については,2次元図面での表記方法が確立しているのに対して,3次元データに付加する方法は未整備だ。


図●設計意図を伝える手段と課題
現状では2次元図面と3次元データにはそれぞれ一長一短があるため,両者の併用が現実的な方法だ。しかし,単に従来の2次元図面と3次元データを併用することの課題もある。3次元データと併用することを前提とした2次元図面の在り方を考えることが重要だ。




創造志向


ルーチンワークを自動化し
考える時間を確保する

 「3次元CADはモデリングツールではなく,設計ツールであるべき」(キヤノン情報通信システム本部技術システム第二センターセンター所長の浜谷雅秀氏)。設計者が工数を割いてCADの機能や性能が不足している部分を補う必要がないツールが求められる。
 3次元データの活用によって得られる効果の多くは,完成した3次元データを使って部品間の位置関係をチェックしたり,CAMやCAEに流用したりといった使い方で得られるもの。3次元データを作成すること(モデリング)自体が設計の目的ではない。
 しかし,2次元CADによって図面を作成するのと比較して,3次元CADによって3次元データを作成するのは難しく,時間がかかる。ツールの操作性だけでなく,3次元データは2次元図面よりも詳細な部分まで形状を決定または把握しないと作成できないためだ。この課題を解決することが,設計作業の効率を高めるためには必要となる。


図●3次元データを使った設計ループ
3次元データの活用によって評価に関する効率化は進むが,それ以上に3次元データ作成(モデリング)の手間が増えると設計ループの回数が少なくなる上に,本来の設計業務である仕様の検討に時間を割けなくなってしまう。




応用強化


CADの弱点を回避し
流通範囲を大幅拡大

 せっかく作成した3次元データを金型加工用のNCデータ作成にしか使わないなど,一つの目的のためだけに利用するのはもったいない。より多くの効果を生み出すために用途を増やし,利用するユーザーも多くすることで,3次元データ活用による効果をさらに大きくできる。
 しかし,3次元データを活用するツールを3次元CAD(もしくはCAMやCAE)だけに限定すると,活用範囲を広げるのは難しい。現状の3次元CADには活用ツールとして,また作成したデータの性質の両面で課題があるからだ(図)。


図●軽量3次元データとビューワ
ユーザー層や検討項目の拡大といった3次元データの使い回しを進めるためには,軽量3次元データやビューワの採用が効果的だ。