日経ものづくり 直言

生産現場は空洞どころか空白
再生に必須の三つの視点とは

酒巻 久●キヤノン電子 代表取締役社長

 日本の生産技術・品質・コストは 世界一だ。欧米から学ぶものは ない」と,豪語していたのは昔話。やが て製造業の空洞化をマスコミが声高に 指摘するようになったが,現在はさら に悪化し,空白状態になっている。

 企業は工場を労働力が豊富で低賃 金の国に移すことによって発展してき た。円高などの要因で生産国が移れば, 生産にかかわる技術やノウハウも移動 する。ところが技術移管を終えた技術 者が帰国すると,もう自分の技術を生 かす場がない。この人たちを最後に実 務経験者がいなくなって技術は消滅 する。これが空白の正体である。

 技術の再生には, 「生産なくして生産 技術・生産管理技術の進歩はない」こ とに,まず気付かねばならない。日本は かつて,電卓の開発設計,生産技術で 圧倒的強さを誇った。ところが,生産を 台湾,次に中国に移し,生産技術も同 様に移管した。その結果,開発設計も 含めて電卓の技術は日本からほとん ど消え去ってしまった。このことを教 訓として思い起こす必要がある。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載

日経ものづくり 直言
さかまき・ひさし
1940年生まれ。1967年にキヤ ノン入社。研究開発部門など を経て,1996年3月に常務取 締役生産本部長,セル生産を 導入し,定着させる。1999年3 月から現職。著作に『キヤノン 方式のセル生産で意識が変わ る会社が変わる』など。