日経ものづくり 特集

金属材料の高騰が止まらない。 5年前に比べ,鉄が2倍になったのは序の口。インジウムやモリブデンなどのレアメタルは 5~8倍に跳ね上がっている。しかも, 新興国の成長で需給逼迫が続きそうだ。 対策は,材料を「減らす」「代替する」が基本。既に,トヨタのハイブリッド車向けモータや, JFEスチールのステンレス鋼など, 削減や代替を狙った開発が始まっている。 そこには,多様なアイデアの技術開発がある。


終わらない高騰、逼迫
開発、設計、生産の 根幹を揺るがす

 トヨタ自動車社長の渡辺捷昭氏は顔を曇らせた。「資源は大変悩ましい問題だ」―。
 2007年5月17日,トヨタはハイブリッド・システムを搭載した同社の最高級車「レクサス LS600h/LS600hL」を発売。その発表会で渡辺氏はハイブリッド車の戦略にあえて言及し,「2010年代のできるだけ早い時期に,年間100万台の販売を目指す」という方針をあらためて強調した。その直後,「100万台売るほどモータに使うレアアースを確保できますか」という,本誌の質問に対する答えが「資源は大変悩ましい」だった。
 渡辺氏は続ける。「クルマの原材料は鉄(Fe)をはじめ,銅(Cu)やアルミニウム(Al),そして(排ガス浄化触媒に使う)貴金属までが大きく値上がりしている。だからといってクルマの価格には転嫁できない。このため,原材料の使用量削減や有効利用といった取り組みを,設計から生産まですべての工程で強化している。基礎研究では,特にレアアースや貴金属を使わないで済む技術や,代替材料の開発を重視している。資源問題に対して,一企業ができることは限られているが,可能な限り総合的に取り組まなければならない」。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●銅を削減したレクサスのモータ


コストを抑えて性能は落とさず

 スキャナやカメラのレンズ駆動部品,小型FA機器などを製造するキヤノン電子は,環境対策やコスト低減の観点から,社長の酒巻久氏の主導で原材料を減らすための全社的な取り組みを展開している。さまざまな委員会を設けているが,その一つに「材料統合化委員会」がある。この委員会は,設計部門や調達部門の課長クラスの10人ほどで構成され,金属や樹脂材料の標準化などによって材料費削減を実現するのがミッションだ。
 同社は,全社で対応する必要がある課題が出てくると,これまでも実務担当者主体の委員会を機動的に立ち上げてきた。材料統合化委員会は,原材料の価格上昇に対処するために2005年に活動を開始した比較的新しい委員会だ。
 例えば,金属の使用量を削減するために,めっき液の長寿命化に取り組んでいる。「従来の2倍使えるめっき液を開発中。2007年中には実用化したい」と同社常務取締役材料研究所長の神辺純一郎氏は話す。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●キヤノン電子のめっき製品


配合とプロセスの妙
期待高まる新材料

 高価な金属を使わずに済ませられないか―価格高騰の苦境を打破すべく新材料に期待が寄せられている。かつては必須と考えられていた金属原料を使わずに,従来の材料に匹敵あるいは凌駕する性能を持った新しい材料を開発しようというアプローチだ。例えばステンレス鋼がその一つ。最も一般的なオーステナイト系の「SUS304」の代替材として,JFEスチールが開発したフェライト系の「JFE443CT」が躍り出た。
 ステンレスの代名詞ともいえるほど普及しているSUS304は,約18%のクロム(Cr)とニッケル(Ni)約8%を含む。ステンレスの耐食性を実現しているのはクロム(Cr)だが,オーステナイト系のステンレスでは,オーステナイト相を固定するのにNiが要る。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●フェライト系ステンレス「JFE443CT」のコイル