日経ものづくり 直言

戦艦大和の先進技術の本質と
日本の設計製造技術の危機

高張 研一●ものづくり松下村塾 塾頭

 1960年代後半,重工大手に勤務していた時に,戦艦大和の設計・建造に携わった渡辺英一氏の指導を受けた。渡辺氏は,海軍技術大尉から防衛庁(当時)を経て民間会社の造船技術者に転じていた。

 大和は悲劇的な最後を迎えたが,あの時代,これだけ巨大で精緻な建造物が短納期,低コスト,高品質,高性能を満たして造られことは,技術的に特筆すべきことだと思う。使われたのは,手回し計算機とそろばん,そして計算尺。あとは大きな製図板が用意されていただけ,と聞く。

 大和の新規性は数多くある。例えば,溶接採用の大型構造物としては世界初であることだ。特に舷げんそく側に厚さ410mmの鋼板を採用したことや,それを支えた曲げ加工と溶接の精度は今でもその類を見ない。船の基本性能である推進効率の向上にはこの美しい舷側が貢献している。このことを溶接工たちも十分理解していた。また乗組員の士気はこの美しい舷側によって大きく高揚したといわれる。生産管理面でも,大和の建造に使われた部品表による物品集中管理方式は,今でも十分通用する手法である。

日経ものづくり 直言
たかはり・けんいち
1967年に大手重工に入社,黎明期のIT技術を用いた超大型タンカーやLNG船の設計開発に従事。1996年技術コンサルティングのTCR総研設立。2005年から勉強会NPOCAFE「ものづくり松下村塾・構造設計講座」を主宰。