日経ものづくり 詳報

電力会社はかくて不正を繰り返す
事業者に頼る安全管理はもはや限界

 技術の現場を経験して技術と組織論理を熟知しているエンジニアや研究者は誰でも,多くの研究/産業現場で関連規制法違反や関連保安規定違反が日常的に行われていることを認識している。もちろん,そのような行為はないに越したことはない。内部告発によって社会に公表された事例は氷山の一角にすぎず,大部分は隠蔽されてきた。
 奇妙に思えるかもしれないが,組織内では,巧妙に隠蔽できるエンジニアや研究者は組織に忠実で優秀な人物と位置付けられ,優遇されている。産業分野の中で,特に原子力分野で記録改ざんや隠蔽などの不正行為が多いわけではないが,社会の関心が高いために,他分野の不正よりも頻繁に大きく報じられる傾向にある。
 原子力分野で発生したここ数年間の不正は,規模/件数/内容からして前例がなく,目に余るものがある。その代表例が2002年8月,さらに2007年1月と2月に発覚した東京電力による大規模な記録改ざん/隠蔽/捏造である。表は,それらまで含め過去15年間に発覚した記録改ざん/隠蔽/捏造例である。同様のことが繰り返されていることが読み取れる。
 東京電力は,米国の検査子会社の日本人エンジニアによる内部告発を受け,2002年8月,福島第一発電所/福島第二発電所/柏崎刈羽発電所の3発電所の10基(福島第一・1,2,3,4,5号機,福島第二・2,3,4号機,柏崎刈羽1,3号機)の原子炉の炉心隔壁(シュラウド)などに発生した亀裂を隠蔽していたことを公表した。それに対し,筆者は日本原子力学会の論文誌論文において,その技術的背景と意味を考察した。