2000年12月。アイ・エイチ・アイ・エアロスペースの齋藤浩明に残された時間はわずかだった。つい数週間前,米National Aeronautics and Space Administration(NASA)は,小惑星探査機「はやぶさ」に搭載する予定だった探査ロボット「MUSES-CN」の開発を断念した。これで齋藤らが手掛ける「MINERVA」がはやぶさに載ることは,ほぼ確実になった。

 次なる節目は,2001年3月に控えるはやぶさとの合同試験である。それまでに,MINERVAのPFM(プロト・フライト・モデル)を仕上げなければならない。ところが開発は暗礁に乗り上げていた。気温が下がるとカメラが動作しなくなる不具合が直らない。

 齋藤は,カメラ・モジュールの開発に携わった技術者を一堂に集めて打開を図る。これが当たった。議論の中から,不具合の元凶がいぶり出された。突破口を開いたのは,FPGAメーカーの技術者の意見である。USBインタフェースとマイコンのバスをつなぐ変換回路に使ったFPGAの設計に難があるのでは。この指摘は正鵠(せいこく)を射た。程なく設計にミスが見つかった。