日経ものづくり 設計者のための解析入門

第13回 熱流体解析編(3)

熱と流れを個別に計算
手順の工夫で計算時間を短縮

熱流体解析には時間がかかる。しかし,少し工夫することで計算時間の短縮が可能となる。通常は同時に解く熱と流れを個別に計算するのだ。今回はその考え方と,計算手順の使い分け方について解説してもらう。(本誌)

広野 友英
電通国際情報サービス 製造システム事業部 CAE技術部

 熱流体解析(CFD)ツールは,原則的に熱と流れの計算を同時に解くが,それぞれを個別に計算できるものも多い。つまり,温度差によって生じる自然対流を無視した流れ計算と,その流れに基づく熱計算とをそれぞれ実行するのだ。そうすることで計算時間を短縮できる場合がある。
 一般に流れ場を解くには,メッシュで分割した各計算点の「流速(3成分),圧力,乱流変数(通常は2種類)」の六つもの変数を求めなくてはならない。一方,熱計算の変数は「温度」のみで,材料物性も一定であることが多いため比較的容易に解を得られる。
 しかし,熱と流れは相互に影響し合うので,通常は方程式を同時に解く必要がある。そのため変数が七つに増え,計算が複雑になる。しかも,熱の計算は流れのそれよりも収束が速いにもかかわらず,同時に計算すると流れと同じ回数だけ反復計算することになり,計算時間が長くなる。
 だが,問題によっては熱と流れを個別に計算しても,同時に計算したのと同等の解を,より短い時間で得られる。特に定常状態の問題では大きな効果が期待できる。さらに非定常問題でも個別に計算できる場合がある。
 注意すべきは解くべき問題の種類によって手順が違うことである。問題の種類とは強制対流問題,自然対流問題,混合対流問題―の三つ。強制対流問題は,解析対象の内外でファンやブロワーなどによって生み出される流れが支配的なもの,自然対流問題は流体の空間的な温度分布(つまり密度分布)によって生じる浮力が支配的な流れ,そしてどちらの影響も無視できないのが混合対流問題である。

日経ものづくり
表●熱流体問題と計算手順の組み合わせ
熱流体現象は3種類に大別でき,問題の種類によって熱と流れの計算手順を変えることで計算時間を短縮できる。◎が最も適した手順を示している。